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No586 (2011/04/27)
連載 脱原発は科学的な必然
そのC 高コストの原発が利潤を増やす?

1.原子力を儲かる発電にする制度的なからくり

1-2 地域独占料金と総括原価方式

 日本の電力供給体制は全国をブロックに分けて、その中で地域独占の単一電力会社が給電を行うシステムになっています。そして各地域における独占価格は総括原価方式あるいはレートベース方式と呼ばれる方法で算定されます。これは、電力を供給するための必要な経費に一定の利潤を加えて算定されます。具体的には次に示す通りです。

総括原価 = 必要経費(減価償却費+営業費+諸税)+適正利潤
適正利潤(事業報酬)= レートベース × (報酬率)
レートベース= 固定資産+建設中資産+核燃料資産+ 繰延資産 + 運転資本 + 特定投資
電気料金=総括原価÷販売電力量

 報酬率は『一般電気事業供給約款料金算定規則(平成11年12月3日通商産業省令第105号)第四条第四項』に次のように定められています。

 報酬率は、次の各号に掲げる方法により算定した自己資本報酬率及び他人資本報酬率を三十対七十で加重平均した率とする。
 自己資本報酬率 すべての一般電気事業者を除く全産業の自己資本利益率の実績率に相当する率を上限とし、国債、地方債等公社債の利回りの実績率を下限として算定した率(すべての一般電気事業者を除く全産業の自己資本利益率の実績率に相当する率が、国債、地方債等公社債の利回りの実績率を下回る場合には、国債、地方債等公社債の利回りの実績率)を基に算定した率
 他人資本報酬率 すべての一般電気事業者の有利子負債額の実績額に応じて当該有利子負債額の実績額に係る利子率の実績率を加重平均して算定した率

 つまり報酬率は次のように算定されます。

報酬率=0.3×(自己資本報酬率)+0.7×(他人資本報酬率)

 具体的な数値は例えば次の表の通りです。

 総括原価方式による電気料金の算定において、適正利潤を大きくするためにはレートベース(固定資産、建設中資産、核燃料資産、繰延資産、運転資本、特定投資)を出来るだけ大きくしてやればよいことになります。つまり、出来るだけ高価な発電施設を導入することが利潤を増やすことになるのです。
 電力市場が通常の市場経済で価格競争があるのならば出来るだけ安価で効率的な発電装置を導入することが利潤の増加につながります。しかし地域独占が許された電力供給では、価格競争は存在しませんから消費者は自家発電装置を持っていない限り当該地域の単一電力会社から電力を購入することになるため、電気料金を上げることによって売り上げが減少する心配はありません。電力会社は前回紹介した原賠二法によって原子力発電所事故発生時の経済的なリスクを国家が保障する確約を取り付けたことによって、利潤を大きくすることを目的に一斉に原子力発電の導入にはしったのです。

 例えば少し古い資料ですが、『新版原子力の経済学』(室田、1986年)からのデータを示しておきます。

例えば赤線を付した1984年のデータを見ると、火力発電による発電量は57.6%、原子力発電による発電量は25.5%であるのに対して、レートベースに占める割合は火力発電が31.5%であるのに対して原子力発電は57.5%です。これを単位発電量あたりの比率で示すと次のようになります。

(31.5/57.6):(57.5/25.5)=0.547:2.255=1.0:4.122

つまり、単位発電電力量あたり原子力発電は火力発電の4.122倍の利潤を生み出していたのです。逆に見ると、原子力発電は単位発電電力量あたり火力発電の4倍以上の巨大な発電装置・施設を必要とする、非効率的な発電方式なのです。
(続く)

No585 (2011/04/27)
連載 脱原発は科学的な必然
そのB 東電はなぜ高コストの原子力が好きなのか?

 これまで2回の連載で見てきたように、原子力発電は電力供給の高々20%程度を担っているだけに過ぎないのに、国や電力会社などの関連企業は莫大な資金を投入して、まさに半世紀以上にわたる大国家プロジェクトとして進められてきています。
 これは裏を返せば、原子力発電はいまだ経済システムとしては自立することができない技術であるために、国家的な財政投入を行わなければ維持できないことを示しています。つまり、原子力発電電力は極めて高コストの電力であるということの証左なのです。
 今回の震災に端を発する原子力発電所の脆弱性の露呈で明らかなように、電力会社は原子力発電は重大事故を起こさないことを前提に、事故発生に対する安全対策をほとんど行わずに発電コストを安くしてきました。それでも、原子力発電の発電電力の発電原価は20円/kWh(東電柏崎刈羽原子力発電所5号機;1990年4月運転開始)程度でした。これに対して通常火力発電の発電原価は7円/kWh程度でした。原子力発電は安いというのはマスコミによって刷り込まれた幻想なのです。



 しかも、東電によって申告された原発の発電原価には使用済み核燃料の保管や再処理、更に高レベル放射性廃棄物処理など、本来ならば原子力発電のコストに含められるべき大きなコストが、電力会社の事業から政策的に切り離され、莫大な国家予算を投入する国家系の別組織(日本原子力研究開発機構[旧動燃]、日本原燃など)に付け替えられている結果なのです。これらのコストをすべて考慮すれば、原子力発電電力の発電原価は更に数倍に膨れ上がることになります。

 通常の民間会社であれば、このような高コスト=非効率的で危険な原子力発電という発電システムを採用することはありえません。なぜ東電はじめ日本の電力会社は原発を採用したがるのでしょうか?そのからくりを二つの側面から示すことにします。

1.原子力を儲かる発電にする制度的なからくり

1-1 原子力賠償二法

 既にこのホームページでは再三触れていますが、日本の核技術開発の本来の目標は戦後間もない時期に中曽根康弘らによって目論まれた核武装であり、その技術獲得のための原子炉運転=原子力発電だったのです。
 しかし、電力会社にすれば、原子炉内に広島型原爆の数100倍の死の灰を詰め込んでいるため、事故が起こった場合の被害の大きさ、その賠償の危険性を考えると、とても導入できないと考えました。また、保険会社にしても、このような危険なシステムの保険を請け負うことは危険すぎると反対しました。
 そこで政府が用意したのが原子力賠償二法です。具体的には、次の二つの法律です。

@原子力損害の賠償に関する法律
A原子力損害賠償補償契約に関する法律

 @の目的にこの法律の本質が現れています。曰く『(目的)第一条  この法律は、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、もつて被害者の保護を図り、及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。
 つまり、事故発生時に原子力事業者に過大な賠償責任を負わせずに、原子力事業の健全な発達を保障することが目的なのです。免責条項として、『異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたもの』が挙げられています。
 更に、賠償措置として事業者が準備を義務付けられている支払賠償金額の上限は『その措置により、一工場若しくは一事業所当たり若しくは一原子力船当たり千二百億円(政令で定める原子炉の運転等については、千二百億円以内で政令で定める金額とする。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができる』にすぎないのです。
 この賠償措置について、その裏づけとして民間損害保険会社との保険契約と国に対する供託の二つの契約を行うことが義務付けられています。民間損保会社には自然災害などの免責事項があります。損保会社が免責される場合には、原子力事業者が国に供託したものから国家からの補償金として支払われることになります。
 では、今回の福島第一原発事故のように賠償金額が1200億円を超える場合にはどうするのか?勿論、原賠法の賠償措置金額を超える支払いはこれまで行われたことがなく、実際にどうなるのか現状では不透明ですが、法では『(国の措置)第十六条  政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。 』と定められています。

 このような国家的な手厚い財政的な保障の確約を取り付けたことによって、原子力事業者=電力会社は原発事故による経済的な破綻=倒産のリスクを回避できることが保障されたので、国家の要請に従い、原子力発電の導入に同意したのです。

 少し冷静に考えてみてください。たかが民間企業の一製造設備にすぎない原子力発電所を導入するために特別に法律を制定してまで国家的な財政保障を担保することによってやっと導入されるような発電システムが安価で安全なはずはないのです。
(続く)

No584 (2011/04/26)
連載 脱原発は科学的な必然
そのA 東電はなぜ過剰な設備を持っているのか?

 さて、もう少し検討しておくことにしましょう。もう一度東電の販売実績を示しておきます。


 グラフから、2009年度の電力供給実績は2,802億kWh/年=2.802×108MWh/年です。この電力量に対する平均的な発電能力を計算すると以下の通りです。

2.802×108MWh/年=2.802×108MWh/(365×24h)=31,986MW

 東京電力管内の発電設備の利用率は、

31,986MW÷77,692MW=41.2%

 東電管内の原子力以外の発電設備で対応する場合の利用率は、

31,986MW÷59,504MW53.8%

になります。つまり、原子力発電所をすべて閉鎖したとしても、残りの東電管内(受電分を含む)の発電設備を平均的には半分程度利用すれば済んでしまうということです。ただし、電力需要には下の図に示すように季節変動があり、また日変動があります。



 そのため、夏の日の午後に現れるピーク需要を賄うことが必要最小限の発電設備規模ということになります。東電の場合、この夏場のピーク需要を示したのが冒頭の図に示した赤い折れ線グラフの値です。前回検討したように、東電の原子力を除いた発電施設の発電能力は59,504MWであり、昨年のような異常な猛暑でもない限り、十分夏場のピーク需要を賄えると考えられます。

 しかし、原子力発電を含めると、東電管内の発電設備は余りにも過剰すぎると思われます。それは、東電が原子力発電というお荷物を持っているからなのです。
 原子力発電は核分裂性の放射性物質という危険性が高く扱いづらい「燃料」を使用するため、メンテナンスに非常に手間がかかります。他の発電システムに比較して極めて厳重な点検作業が必要であるばかりでなく、その作業が放射線による被爆労働となるために、通常の機械システムのメンテナンスに比較して点検整備のための運転停止期間が格段に長くなるのです。その結果、2003年のように東電管内のすべての原子力発電が点検作業のために運転を停止しなければならないような事態が起こることが考えられるのです。
 その結果、原発なしでも電力需要を賄える程度のバックアップ用の発電設備を保有しておくことが必要なのです。しかしこの原子力発電を含めた電力供給システムとは冷静に考えると極めて無駄な発電システムだということがわかります。遊休発電設備が極めて多くなるため、設備利用率が低く、「もしも」の場合に備えてだけ設備を保有することは、無意味な設備維持費だけが増大するため、通常の産業ではこのようなシステムの運用は考えられません。
 最も効率的な運用は、原子力発電をすべて廃止して、その他の発電システムですべての供給電力を賄うことなのです。既に検討したように、原子力を含めた場合の平均的な設備利用率は41.2%であるのに対して、原子力発電以外の発電システムだけで運用した場合の設備利用率は53.8%になるのです。
 しかも、原子力発電を保有しなければ、単位発電電力量あたりの発電コストが非常に高い原子力発電所は不要です。また、まったく電気を生み出さないにもかかわらず、使用済み核燃料の保管や再処理、更に高レベル核廃棄物処理など莫大な資金とエネルギーの投入の必要な無駄な事業がまったく不要になるのです。
 それならば逆に、原子力発電所を増やしてその他の発電設備を減らすことは可能なのでしょうか?



 東電の描いた上図は、電力需要と供給量をごちゃ混ぜにしたまったくおかしな図なのですが(揚水用動力とは電力需要であり、それ以外は供給量です。笑)、発電システムの特性は理解できるでしょう。他のエネルギーに比較して電力の供給の難しいところは供給と需要が常に同期していなければならないことです。供給と需要に大きなギャップが生じれば予期せぬ停電などが発生し、供給電力の質が低下することになるのです。
 原子力発電は需要にこまめに追随して出力を調整するような発電は行えません。そのため、原子力を大きくしていくにしたがって電力供給量の調整能力が小さくなり、供給電力の質の低下が生じます。これを回避するためには余剰電力の捨て場としての揚水発電所を建設することが必要となり、ただでさえ高コストの原子力発電の電力が更に高価になるのです。
 CO2地球温暖化対策として原発の導入推進を目指した菅内閣が、同時に電気自動車の普及を目指したのは、余剰=無駄な夜間余剰電力の捨て場を求めてのことだと考えられます。低エネルギー利用効率で高コストの原子力発電電力を、これまた資源利用効率の低い電気自動車と組み合わせれば、石油をはじめとするエネルギー需要と希少資源を含めた地下資源消費は大幅に増大することになります。
(続く)

No583 (2011/04/25)
連載 脱原発は科学的な必然
その@ 東電の発電能力と原子力

 さて、このHPでは既にNo.570夏でも東電は電力供給可能で触れたように、東京電力管内の原子力発電がすべて運転を停止しても発電能力は夏のピーク時でもおそらく問題は生じないことを紹介しました。
 前回は売電量からの推定値を示しましたが、今回は東電の『平成22年度 数表で見る東京電力』からの数値を紹介することにします。



 上に示す数表の平成21年度の実績数値から、他社からの受電分を含めた発電設備の総発電能力は77,692MWであり、そのうち原子力発電は18,188MWであることがわかります。東電の原子力発電を除いた発電能力は、

77,692MW−18,188MW=59,504MW

No.570における推定値は57,681MWとしていましたので、おおむね妥当な数値であったと考えます。つまり、東電の火力発電設備が復旧すれば、原子力なしでも概ね60,000MWの発電が可能なのです。



 東電の電力販売実績を上のグラフに示します。図の赤で示した折れ線グラフは各年度のピーク発電量を示しています。単位は万kWなので、赤の数値に10をかけることでMWに変換できます。
 このグラフからわかるように、2000年以降、東電管内の年間の電力需要もピーク発電量もほとんど横ばいであり、顕著な上昇はありません。ピーク発電量につきましてはむしろ低下傾向さえ見受けられます。
 昨年の夏は猛暑であり、ピーク発電量は60,000MWを超えたようですが、これはむしろ例外的に高い数値です。更に今年の夏は、地震の影響で産業活動は昨年よりも低いレベルで推移することは明らかですから、おそらく去年レベルの猛暑であったとしてもピーク発電量が60,000MWを超えることはあり得ないでしょう。
 つまり、東電や政府の恐怖宣伝は在りもしない電力供給不足を前提に企業活動や国民に強制的に節電を行わせることによって、いかに原発が重要であるのかを刷り込むための謀略宣伝としか言いようがないのです。
 勿論、既に日本の大都市や大都市住民は電力を使いすぎであり、これを減らすことは当然今後必要な対応です。しかしながら、原発がないから強制的に節電を要求し、虚偽の理由によって原発の必要性を宣伝することはほとんど犯罪行為と言ってよいでしょう。



 上の図は、東電管内の発電設備容量の構成比率の推移をグラフ化したものです。平成21年実績で見ると、原子力は全体のわずか23%にすぎないのです。ちなみに、電力10社の合計を次の図に示します。



 グラフからわかるように、全国では更に原子力の比率は小さくわずか20%にすぎないのです。
(続く)

No582 (2011/04/22)
ホームページ移動のお知らせ

 このホームページを公開している旧サーバーが5月21日に廃止されることになりました。それに伴い、新しいサーバーへ移行作業を行い、ほぼ正常に閲覧できるようになりました。
 なかなか完全にすべてをチェック出来ていない可能性がありますので、おかしな部分がございましたらご連絡いただければ幸いです。
 なお、このホームページを継続してご覧いただいている方は、お手数ですがブックマークを新URLに変更してくださいますよう、お願いいたします。


No581 (2011/04/21)
劣化ウラン弾という核兵器

 今リビアのカダフィ政権に対する反政府運動が軍事衝突になっている。この第一義的にリビアの国内問題に対して米国・NATO軍は反政府勢力に対するカダフィ政権の軍事攻撃が非人道的であるという名目でこのリビアの内戦に軍事介入している。
 まず第一にこのような国内問題に対して軍事衝突の一方の当事者に対して第三国が軍事援助するということが果たして容認されて良いものであろうか?米国ないし西欧諸国は対テロ戦争同様、この機に乗じて火事場泥棒的にリビアに親米、親欧州的な半ば傀儡政権を打ち立てようとしているとしか考えられない。

 さて、この米軍・NATO軍の“人道的な目的”を遂行するために劣化ウラン弾をリビアの国土に撃ち込んでいることが明らかになった。彼らは湾岸戦争、コソボ紛争、対テロ戦争など世界各地の紛争地域において劣化ウラン弾をためらうことなく使ってきた。彼らは原発の廃棄物を他国の国土に打ち込んで処分しているのである。
 劣化ウラン弾の使用によって弾頭に含まれている微量のウランU235をはじめとする放射性元素が着弾の衝撃と摩擦熱によって周辺に撒き散らされることになる。その結果、ボスニアやコソボやイラクにおいて白血病や奇形児の出産が報告されている。また、戦闘に参加した兵士にも帰還後に晩発性の放射線障害と見られる症状が現れている。
 米国は、劣化ウラン弾の弾頭に含まれるウランU235や放射性物質は極微量であり健康に影響を及ぼすことはなく、白血病や奇形児出産が放射線による影響であることを否定している。しかし、現実にその小さな放射線量であってもその微細粉末を吸い込むことによる典型的な低線量の内部被爆によって確実に健康被害が発症しているのである。
 広島や長崎に落とされた原爆は言うなればウランU235やプルトニウムPu239の核分裂による強烈な中性子線による外部被爆による急性的な障害によって人を殺す兵器であるのに対して、劣化ウラン弾は放射性物質の核崩壊による放射線による低線量の内部被曝による晩発的な死をもたらす兵器である。
 米国やNATO軍の主張はまさに今福島で起こっている低線量放射線に対する国や御用学者が主張する説明の内容と酷似していることは偶然ではないだろう。彼らは人命を軽視するという点において正に考え方を共有している。

 劣化ウラン弾の放射能レベルは14.8Bq/mg=14,800Bq/g程度と言われている。福島原発事故で飯館村の雑草から最高2,650,000Bq/kg=2,650Bq/gのセシウムが検出された。劣化ウラン弾は着弾して微細粉末となって拡散することを考えれば、飯館村で検出された放射能レベルは十分危険な値である。
 現政権は知らぬ顔を決め込むであろうが、今後徹底的に福島第一原発周辺住民の継続的な健康調査を行い、低線量被爆の健康に及ぼす影響を詳細に記録することが放射線医療関係者の責務であろう。


No580 (2011/04/18)
現実性の無い収束工程表

 東京電力から原子炉の安定化の工程表が出されました。おそらくこれは福島県の佐藤知事の意向を受けた政府が東電に描かせたものだと推測します。
 しかし、地方自治体も国も一体いつまで同じ過ちを繰り返すのでしょうか。もうそろそろ原子力災害というものが通常の事故や災害とはまったく性質が異なることを理解して、地元住民に率直に理解を求めるべきでしょう。

大分合同新聞2011年4月18日朝刊

 まず、簡単に今回出された工程表を見ておくことにします。
 現状では、1〜3号機までの原子炉は、程度の差はあるかもしれませんが圧力容器、格納容器とも損傷していることは明らかであり、地下水に高濃度の放射性物質を含んだ汚染水が流れ出していることから原子炉建屋の底部もかなり大きく損傷していると考えられます。
 このような状況で注水を行いつつその一方で莫大な量の放射性物質を含んだ汚染水を排水し、圧力容器の新規の循環冷却システムを構築するなど、画餅以外の何物でもないでしょう。この工程を実現するにはまず手始めに原子炉圧力容器、格納容器、建屋からの漏水箇所を発見し、これを補修しなければなりませんが、現状ではそれが出来るとはとても考えられません。
 原子炉建屋内の放射線レベルは、1号機では10〜49mSv/h、3号機では28〜57mSv/h程度であり、緊急事態に対する引き上げられた作業員の年間被曝線量をわずか4,5時間で浴びてしまうほど強烈なものです。このような高放射線レベルの劣悪な条件の下で、原子炉建屋内に作業員を入れて圧力容器や格納容器の漏水を止め、新たな循環冷却システムを構築するという困難な作業が出来るとは常識的には考えられないでしょう。根本的にこの工程表は見直す必要があるでしょう。
 もっとも、この工程表を出した東電としても、この工程表はあくまでも机上の空論であることは十分に承知した上で、政府や福島県知事をとりあえず黙らせるためにそれらしい内容をまとめたに過ぎないと認識していると思います。

 住民からいつ帰れるのかと突き上げられた無能な知事が現状を冷静に判断する能力が無く、そのまま政府に伝え、仕方なく東電が住民を沈静化させるためにとりあえずの絵を描いたというのが真相だと考えます。今回のあまりに楽観的な収束工程表に対して、海江田や菅は出来ればさらに前倒しで工程を進めるようになどという大馬鹿としか言えないコメントを出す始末です。
 この工程表を受けて枝野は避難住民が帰れるのは数ヵ月後以降であるなどという空手形を切る始末です。住民にとっては本当に厳しい現実ですが、原子炉が仮に安定したからといって放射性物質で汚染された地域に戻ることは出来ないと早く住民に対して納得を得るように説明を尽くすことこそ行政の勤めだと考えます。

 このような、政府や東電の事故発生以来「一貫した」楽観論=『風評』によって住民は裏切られ続けており、その結果住民の中に混乱と不信感が膨れ上がり、事故に対する本格的な対応が遅れているのです。政府や自治体は事態を科学的・客観的に直視し、それを誠実に住民に語るべきことに早く気づくべきです。
 おそらくこのままではこの工程表は早晩破綻することになるでしょうが、その時さらに住民の混乱が増すことになるのは必定です。