No.1247 (2018/12/16) 年中行事となった年末の温暖化による脅迫
人為的温暖化で気温が4℃上昇して日本の砂浜が消滅する?!

 国連気候変動に関する枠組条約第24回締約国会議=COP24が開催されていたためか、このところ温暖化の脅威を吹聴する報道が目につきます。COPが12月に行われるためか、年末といえば温暖化の脅威を煽る報道が行われるというのが、半ば年中行事(笑)となったようです。

 12日のNHKのニュース番組で、人為的温暖化がこのまま続いて4℃上昇すると、日本の砂浜が半分以上姿を消してしまうと報道していました。NHKニュースウェブの記事を紹介します。


 海水浴やサーフィンなどで私たちに身近な砂浜が危機にひんしています。地球温暖化による海面上昇の影響で、最悪の場合、今世紀末までに日本の9割の沿岸で砂浜の面積が半分以上減るほか、6割が完全に消えるおそれのあることが国の研究機関などの分析で分かりました。
 これは、国連のIPCC=「気候変動に関する政府間パネル」が4年前の平成26年に公表した報告書のデータなどを基に、国立環境研究所や大学など28の機関で作る研究グループが分析したものです。
 それによりますと、今後、世界の平均気温が約4度上がると、日本の沿岸では、今世紀末までに海面が最大で60センチ上昇し、これに伴って、最悪の場合、全国77の沿岸のうち、96%に当たる74の沿岸で砂浜の面積が、今より半分以上減る可能性のあることが分かりました。
 さらに、60%に当たる46の沿岸では、砂浜の消失率が100%に達し、完全に消えるおそれがあるということです。
 国土交通省によりますと、全国各地の砂浜では、戦後の開発や台風による高波などの影響ですでに消失や減少が起きています。
 このうち、神奈川県の湘南海岸では、例えば茅ヶ崎市で平成17年までの50年余りの間に、海岸線が陸側に最大で50メートルも後退したほか、二宮町では、かつて県の海水浴場に指定された幅30メートルの砂浜があり、毎年、海水浴で多くの人が訪れマラソン大会も開催されていましたが、11年前の平成19年以降は、いずれもできなくなっています。
 こうした地域では、砂を再び増やす工事が行われていますが、温暖化による将来の減少や消失を見据えた対策はまだ進められていません。
 このため専門家からは、海水浴などの観光面に加え、防災や生態系の維持など砂浜が果たしている重要な役割を認識し、対策を強化すべきだという意見が出ています。

最悪シナリオを可視化すると…
 国立環境研究所などが行った分析では、将来の気温の上昇の度合いなどに応じて、複数のシナリオを作成し、将来の砂浜の消失率を計算しています。
 NHKは、このうち最悪となるシナリオについて、「NMAPS(エヌマップス)」と呼ばれるシステムで可視化しました。
 可視化にあたっては、消失率が100%になる沿岸は「完全に消失」、81%から99%は「ほぼ消失」、51%から80%は「大幅に減少」、50%以下を「減少」と分類しました。
 その結果、分析の対象となった全国77の沿岸のうち、96%にあたる74の沿岸が「完全に消失」や「ほぼ消失」、それに「大幅に減少」となり、「減少」にとどまるのはわずか3つでした。
 このうち、砂浜が「完全に消失する」と予想される沿岸は、「北見」や「根室」、「三陸北」などの北日本のほか、湘南海岸を含む「相模灘」や東京の「小笠原」、「伊豆半島」や「三河湾・伊勢湾」などの東海地方、「能登半島」や「若狭湾」などの北陸、「紀州灘」や「淡路」などの近畿地方、「広島」や「岡山」、「土佐湾」などの中国・四国地方、「八代海」や「日向灘」、「有明海」、それに「琉球諸島」などの九州・沖縄と、各地に分布していて、広い範囲で砂浜が危機にひんしているのが分かります。

砂浜減少で実際の被害も
砂浜の消失や減少の影響で高波が押し寄せ、建物などに被害が出た地域があります。
 このうち、相模湾に面する神奈川県小田原市の「前川海岸」では、砂浜の減少が続いていて、神奈川県によりますと、平成19年までの60年間に海岸線が約30メートル陸側に後退したということです。
 県は、砂浜の回復を目指し、7年前の平成23年から海岸に砂を運び入れる工事を続けています。
 この砂浜の減少などの影響で、去年10月23日、海岸のすぐ近くにある市の施設、「前羽福祉館」が高波による被害を受けました。
 福祉館は、海抜8.1メートルの所にありますが、この日は、神奈川県に接近した台風21号による高波が堤防を越えて押し寄せ、1階にある窓ガラスが4枚割れ、会議室が浸水する被害が出ました。
 福祉館の近くに住む椎野禎章さん(82)は、当時見回りをしていたときに、堤防を越えた波を頭の上からかぶり、全身がずぶぬれになったということです。その後、福祉館の割れたガラスの撤去作業などを行ったということです。
 椎野さんは「いきなり頭から波をかぶるということは今までなかったので怖かった。昔は砂浜だったのが、今はほとんどが砂利になっていて、波打ち際がだいぶ近くなっているように感じる。自分の家まではまだ波は来たことはないが、これから気候変動でどう変わるか分からないので、先々を見ながら考えないといけないと思う」と話していました。
 国土交通省によりますと、このほか砂浜が減少している影響で、平成19年と去年の台風による高波で、神奈川県二宮町と大磯町の海岸沿いを通る自動車専用道路、「西湘バイパス」の護岸が崩れたり、削られたりする被害が出ています。
 このうち、去年の台風21号では、バイパスの護岸が大規模に損傷したり路面が浸水したりした影響で、4車線ある道路のうち、海側の1車線が今も通行止めになっています。

砂浜減少の影響を実験してみた
 砂浜の消失や減少が進むことで、高波が住宅地にどのような影響を与えるのか。専門家の協力で実験しました。
 高波などのメカニズムに詳しい、中央大学理工学部の有川太郎教授の研究グループは、長さ15メートル、高さ50センチの水槽を使って実験を行いました。
 水槽に海岸にあるものと同じ砂を使って砂浜を作り、その奥に堤防と住宅に見立てた模型を設置します。そこに、特殊な装置で人工的に高波を作り、流し込みます。
 実験の結果、砂浜がある場合は、高波は沖合で砕けて砂浜や堤防は乗り越えませんでしたが、砂浜がない場合は、高波は堤防を乗り越え、住宅に打ちつけました。
 有川教授によりますと、砂浜の消失や減少が進むと、それだけ海岸線と住宅地が近くなるほか、海岸付近の水深も深くなるため、波が砕けてエネルギーを失う「砕波」という現象が起きる場所が住宅地に近くなり、波が到達する危険性が高まるということです。
 一方、砂浜がある遠浅の海岸では、海岸線が住宅地から遠くなるほか、「砕波」も沖合で起きるため、波が到達しにくくなるということです。
 有川教授は「砂浜がなくなると、波がなかなか砕けずに陸地に到達し、住宅の窓が割れたり壁が壊れたりする被害が十分起こりうると思う。砂浜が防災上大事な役割を担っているが、今後、地球温暖化が進むと海面の上昇で砂浜がなくなることが考えられるので、砂浜を守っていくことが非常に重要だ」と話していました。

食卓にも影響
 砂浜の消失や減少は、海の生態系を変化させ、私たちの食卓にも影響を及ぼす可能性があると指摘する専門家がいます。
 水産大学校の須田有輔教授によりますと、砂浜は、砂だけの「砂丘」と砂丘と海の間の「浜」、それに波打ち際から浅瀬にかけての「サーフゾーン」の3つのエリアに分類されるということです。
 このうち、「浜」などの下を通って海に流れ込む地下水には、植物プランクトンの栄養分が豊富に含まれています。また、波打ち際には、打ち上げられた海藻などが線状に並ぶ「ドリフトライン」が形成され、多くの生き物の「隠れが」となっています。
 さらに、波打ち際を含む「サーフゾーン」には、プランクトンのほか、「アミ」や「ヨコエビ」などの小さな生き物が数多く生息し、それを狙って、多くの魚の稚魚が集まってくるということです。
 須田教授が、大学に近い山口県下関市の「サーフゾーン」を調査したところ、ヒラメやシロギス、それにスズキの仲間など60種類以上の稚魚が見つかり、解剖した結果、胃の中から「アミ」や「ヨコエビ」などが見つかったということです。
 このうち、ヒラメは、毎年春に体長3センチほどの稚魚が「サーフゾーン」にやってきて、約1年かけて「ヨコエビ」などを食べて成長し、15センチ前後になると沖合に出て行くことが分かっていて、こうして育った魚が漁業の対象になるということです。
 このように砂浜は、多くの稚魚の餌を供給していることから、須田教授は、砂浜が消えてしまうと生態系のバランスが崩れ、私たちの食卓にも影響を及ぼす可能性があると指摘しています。
 須田教授は「ヒラメなどが浅瀬で子どもの時にしっかりと餌を食べ、大きく育たなければ、漁業は成立しなくなる。砂浜は、直接の漁場にはならないがなくなってしまうと、最終的には人間の生活にも影響が出るということにもつながる。砂浜の大切さをぜひ理解してほしい」と話していました。

専門家「何らかの対策 絶対必要」
 高波による災害や地球温暖化が海岸に与える影響などに詳しい高知工科大学の磯部雅彦学長は、現時点で砂浜が消失したり、減少したりしている原因は、戦後の急速な海岸開発の進展によるもので、今行われている対策は、温暖化を見据えたものではないと指摘しています。
 そのうえで、磯部学長は「砂浜があることによって、大きな波が沖で砕けて被害を防ぐという防災上の効果もあるし、生態系の面でも、海水浴やサーフィンなどのレクリエーションの場としても重要な場所だ。砂浜の浸食は、長い時間をかけて起こるので、注目を集める機会が少ないが、今後、温暖化で砂浜が消えたり減ったりすることはほぼ確実なので、何らかの対策を打つことは絶対必要だ」と述べ、今後は、温暖化の進行を見据えた対策を新たに行う必要があると訴えています。


 この報道も、前回同様の典型的なフェイクニュースです

 温暖化が騒がれ始めたころ、やれ南極の氷床が解けて海面が上昇する、挙句の果てには北極海の海氷が解けて海面が上昇するなどという、中学生でも笑い出しそうなバカげた報道をしたマスコミです。日本の砂浜が消えるという話も、もうずいぶん前に聞いた覚えがありますが、今頃また焼き直しの恐怖宣伝とは、呆れました(笑)。次の図は、以前氾濫したIPCC2013年報告の海面上昇の予測図です。

 今回の報道では、4℃上昇については一切その科学的な裏付けや条件について説明はなく、ただ単に「今世紀末までに世界平均気温が仮に4℃上がったら」という問題設定に対して、「海面が60cm上昇するかもしれない」という、何の裏付けもなしに恐怖心を煽るだけの「架空の=お伽噺」いや、「悪質なフェイクニュース」です。大人げないとも思いますが(笑)、少しコメントしておきましょう。

 まず、4℃の気温上昇というのは、かなり以前のIPCCの報告書における温暖化シミュレーションの最悪ケースなのではないかと思います。近頃はここまで極端な気温上昇を言い立てるのは珍しいことです。国立環境研の技官たちは、温暖化対策の正当性を主張するために古いデータに基づいて、二番煎じの砂浜消失を持ち出したというところです。

 例えば上図に示すように、数値シミュレーションの結果は2000年代に入っても世界平均気温は単調に上昇すると予測されていますが、実際のUAHやRSSの観測値は2000年代に入って顕著な上昇傾向はみられません。

 

 上図は、GHCNの観測ステーションの無補正データの世界平均気温偏差を示したものですが、2000年代以降、急速な気温低下局面に入っているというのが現状です。今世紀末に4℃上昇などという荒唐無稽な仮定はまったく現実的な意味はなく、大衆を徒に不安に陥れるためのフェイクであることは論を俟ちません。

 現在は氷河期の只中にあります。氷河期(=極冠や高山に氷河が存在する時期)の地球の気温は、第一義的に太陽活動によって変動します。

 上図は、西暦1700−2000年の太陽放射照度(Total Solar Irradiance)と北半球の気温偏差を比較したものです。太陽放射照度の変動と北半球の気温偏差の変動に強い正の相関関係があることがわかります。

 2000年代に入ってから気温が低下局面に入ったことは、太陽活動の活性度の低下から明らかです。次の図は最近の黒点相対数の観測結果です。

 太陽黒点相対数と太陽放射照度には強い相関関係があります。下図は西暦1975−2015年の期間の太陽放射照度と太陽黒点数の変動傾向を示しています。

 また、太陽黒点相対数の変動周期が短いほど太陽活動は活発です。20世紀の太陽黒点相対数の変動周期は平均すると11年ほどでした。チューリッヒ番号21、22では変動周期は10年程度であり、太陽活動が活発であったことがわかります。一転して、1997年からの周期は12年を超えています。太陽活動の低下が明らかです。また、2009年からの周期ではさらに太陽黒点相対数の発現が少なく、そして不安定になってきており、周期も12年を超えそうです。

 次に、20世紀終盤、1980年代から2000年にかけての気温上昇によって、南極氷床が融解して海水位が上昇するという事実があったのか、という点についてみておきましょう。
 ご存知のように南極氷床とは南極大陸に降った雪が、一年中氷点下の南極の環境下で溶けることなく自らの重さで押し固められてできたものです。したがって、氷床の生成速度は降雪量に比例すると考えられます。
 さて、日本の北陸から東北の日本海側は世界の豪雪地帯です。気温の低い場所は他にもいくらでもありますが、寒いだけでは降雪量は多くなるわけではなく、一般的にはむしろ降雪量は少なくなります。雪が解けない気温であれば、出来るだけ高温である方が、水循環が活発で降雪量は多くなります。
 したがって、年間平均気温が−10℃台、あるいはそれよりも低い南極大陸では、気温が上昇する方が降雪量が多くなり、したがって、氷床の生産量は増加するのです。これを裏付けるように、201511月、NASAによる南極氷床の観測結果が科学誌「Journal of Glaciology」に公開され、その報告では、19922001年の期間は平均すると1120億トン/年のペースで氷床が増加し、20022008年の期間は820億トン/年のペースで増加したとしています。

 また、少なくとも20世紀後半には南極大陸は寒冷化しており、海氷面積も増加しているのです。
 次の図は南極大陸周辺部に位置する日本の昭和基地の気温変化です。回帰直線の傾きは−0.0042℃/年です。

 次の図は、南極大陸中心部に近いサウスポール基地での気温観測結果です。こちらは−0.0101℃/年です。

 次の図は、南極海の海氷面積の変化です。1980年頃からの観測期間を通して増加傾向を示しています。海氷は海水が冷却されて氷になるものですから、南極海周辺海域では気温が低下傾向にあることを示していると考えられます。

 以上の事実から、20世紀終盤の気温上昇期には、南極氷床の体積は増加し、しかも南極大陸及びその周辺海域の気温は低下傾向を示していたので、南極氷床が融解して海面が上昇するという現象は存在しなかったのです。

 以上、事実を冷静に判断すれば、今世紀末までに世界平均気温が4℃上昇して海水面が60cm上昇するなどということは妄想ないしは悪質なフェイクニュースであると断言できるのです。

 

No.1246 (2018/12/10) 気象シミュレーションで現実の気象現象を証明?!
気象シミュレーションが気象現象を正しく模倣できる保証は存在しない

 12月7日のNHKの朝のニュース番組で、東大のチームが今年の夏の猛暑が温暖化の影響であることを、100通りの気象シミュレーションを行った結果、証明したと報道していました。まずはこの報道についてのNHKのウェブサイトの記事を紹介しておきます。 


  国内で起きている異常気象に地球温暖化が本当に影響しているのか。ことしの記録的な猛暑について、専門家が温暖化が進んでいないと仮定して解析したところ、同じような猛暑となる確率はほぼ0%で、温暖化の確実な影響が証明されました。
  ことしの夏は、埼玉県熊谷市の気温が、観測史上国内で最も高い41度1分に達したほか、東日本の平均気温が統計を取り始めてから最も高くなるなど記録的な猛暑となりました。
  これについて気象庁の検討会は、「特有の気圧配置や温暖化による長期的な気温の上昇傾向が影響した」と結論づけましたが、実際に温暖化がどのくらい影響していたのか証明されていませんでした。
  東京大学大気海洋研究所と気象庁気象研究所の研究チームは産業革命前の温暖化が進んでいない場合の気象状況が現在まで続いていると仮定したうえで、ことしの記録的な猛暑が発生するかどうか確率を解析しました。
  その結果、気圧配置の影響で平年に比べて高温になりやすかったものの、温暖化が進んでいなければことし7月の上空の気温はおよそ2度低くなり、ことしのような記録的な猛暑が発生する確率はほぼ0%で、温暖化が確実に影響していたことを証明できたということです。
  これまで異常気象については、背景に温暖化の影響があると指摘されていたものの、個別の現象との関係を実際に証明する研究は始まったばかりで、具体的な温暖化対策の手がかりになるとして世界的に注目されています。
  東京大学大気海洋研究所の渡部雅浩教授は、「これまで何となくしかわからなかった温暖化と異常気象の関係を証明することができた。研究を進めることで異常気象が起こるリスクが実際にどれくらいあるのか、確率を出せるようにしたい」と話しています。

温暖化の影響を探る新手法とは
  現実に起きた猛暑や豪雨といった異常気象に、温暖化の影響がどのくらいあったのかを証明するため、東京大学の渡部教授らの研究チームが解析に使っている手法は、「イベント・アトリビューション」と呼ばれています。
  この研究手法は、産業革命前から温暖化が進んでいない地球を仮定したうえで、温暖化が進んだ現実の地球と比較することで、個別の異常気象に温暖化が与えた影響を証明していく手法です。
  温室効果ガスの濃度や海面水温などのデータを基に100通りのシミュレーションを行って、気温や大気中の水蒸気量などを解析し特定の異常気象が起きる確率などを計算したうえで比較します。
  東京大学の渡部教授によりますと、「イベント・アトリビューション」を使えばこれまで個々の気象現象についてはっきり示すことができなかった温暖化の影響について、数値を用いて証明することができるため、具体的な温暖化対策につながるとして世界的にも注目されているということです。

西日本豪雨の雨量 温暖化の影響で増加
東京大学の渡部教授らの解析では、ことしの西日本豪雨の雨量が、温暖化の影響で6%ほど増加していた可能性が高いことも判明しました。
  渡部教授らは、6月28日から7月8日を対象に九州から東海にかけての地域を5キロ四方に分けて、温暖化が進んでいないと仮定した場合の雨量と、温暖化が進んでいる現実の気象状況をもとに解析した雨量を比較しました。
  温暖化が進んでいないと仮定した雨量は、1980年以降の20年間で上昇した気温や、それによって増加した大気の水蒸気量を差し引いたうえでシミュレーションしました。
  その結果、観測点ごとの11日間の総雨量の平均は温暖化が進んでいない場合は252.3ミリだったのに対し現実の気象状況をもとに解析した雨量は267.9ミリと、温暖化の影響で雨量が6%ほど増加していた可能性が高いことがわかりました。
  特定の豪雨に対し、温暖化がどれくらい影響していたか示されるのは今回が初めてです。
  渡部教授は「6%増加というとたいした数字ではないようだがそれだけ雨量がかさ上げされたことによってより強い雨が広域で続くことにつながったと考えている」と話しています。


  正にこれは典型的な、コンピューターを使った壮大なフェイクニュースです。記事を見てもお分かりの通り、どのような条件でシミュレーションを行って具体的に何がどのようになることが分かった結果、自然科学的に見てこの夏の日本の猛暑にどのように人為的な温暖化が影響したのかが証明されたかという点について、一切の情報がありません。温暖化した現在の地球と温暖化しなかった架空の地球との違いはいったい何なのか?それをどう証明したのでしょうか?
 かくして、情報の表題や上っ面だけを眺めて分かった気になる大多数の大衆の脳裏には、気象シミュレーションはついに気象現象を証明することができるようになったのだ、そして、この夏の猛暑の原因は人為的な地球温暖化の結果なのだ、ということだけが情報として刷り込まれていくのです。この種の研究成果については、一般大衆には検証の手段がないのですから、言わば「言ったもの勝ち」です。情報操作にはこれほど都合の良いものはありません。このような報道の仕方をするNHKという情報機関は誠に罪深いといわねばならないでしょう。

  そもそも、気象シミュレーションなどというおもちゃで気象現象を再現する能力が証明されたなどという話を聞いたことがありません。そんなもので現実の気象現象の仕組みを証明するなど、土台あり得ない話です。とても単純な話ですが、日本の最先端の気象シミュレーションに基づいた気象予測であっても、一週間先の天気予報が当たることはありません。同種の技術で150年のタイムスパンに対してまともな予測ができる保証などないことは分かり切っています。これ以上の説明は必要ありません。

  そのうえで、今回の報道について多少コメントを述べておきます。平面で5km四方のメッシュとは、ずいぶんと大雑把な解析モデルであり、私はこれだけでも今回のシミュレーションは与太話であり、評価に値しないと考えます。しかも100通りもの解析を行ったとは、要するに現実の気象現象を「モノのコトワリ」として自然現象として自明なモデル化ができないから、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるではありませんが(笑)、コンピューター科学者による恣意的な思い付きの「仕掛け」を幾通りも計算してみましたということにほかなりません。

  一体気象研究者たちはいつまでこのような不毛なお遊びに興じるつもりなのでしょうか?「こんなことをしてて良いのか」と考えるまともな現役の気象研究者はいないのでしょうか。

参照:
No.1244 (2018/11/14) 流体力学シミュレーションの適用限界を考えるC
 気候長期予測シミュレーションは流体力学方程式の適用限界を逸脱している

 

No.1245 (2018/11/22) 環境問題と人為的温暖化・再エネの虚妄A
「環境問題」を考える、とはどういうことか?

 今回は、改めて環境問題を考える意味とは何なのかについて整理しておきたいと思います。

 まず、地球史的にみて、現在の人間社会の特殊性について概観しておくことにします。

 35億年ほど前に光合成生物が登場し、海水中に酸素が増加し始め海水中の鉄イオンは酸化鉄となり鉄鉱床が形作られました。増加する酸素は海水中の鉄イオンを酸化しつくし、やがて大気中の酸素濃度が高くなり始めました。強い地球磁場の誕生と、大気中酸素の増加によるオゾン層の形成で地表面に到達する宇宙線や紫外線量が減少した結果、5億年ほど前に陸上生物が出現しました。

 人類の直系の先祖と考えられる猿人が500万年程前に登場したと考えられています。ちょうど現在に続く氷河期が始まったころです。原人、旧人を経て、現在の人類の直接の先祖と考えられる新人が登場したのは、わずか4万年ほど前のことだと考えられています。これは前回の氷期のただ中でした。

 次に示す図は、前氷期から現在の間氷期の気温変動の概略(実際には大気中の酸素同位体18O比率の1000分率)と人口、エネルギー消費量の推移を示しています。

 最終氷期の終わったころの1万2000年前の世界人口は数100万人程度であったと考えられています。西暦零年の推定人口は2億人から3億人程度と考えられています。西暦1000年頃までは人口は漸増し、その後一気に人口が増加し始めました。特に18世紀の産業革命以降は急激な人口増加を示しています。また、 産業革命以降、石炭、石油をはじめとする化石燃料を中心とする工業的なエネルギー消費が急増しています。

 私たち人間という比較的大型の動物種の近年の短期間の爆発的な人口増加現象は、自然界ではまれな現象であろうと考えます。
 第一の要因は、最終の氷期が1万2000年ほど前に終わり、その後気温変動の小さな安定した温暖期が継続していることが挙げられます。その結果、生態系の一次生産者である植物の生育可能な地域が広がり、生産性が著しく大きくなったのです。
 第二の要因は、気候が安定した結果、農耕が開始され計画的な食料生産・増産、そして余剰食糧の備蓄によって食料生産から解放された集団によって科学技術が発展を遂げ、農耕文明が興ったことです。
 そして第三の要因は、蓄積された科学技術によって化石燃料を用いた熱機関、動力機関が発明され、それまでに蓄えられた科学技術、生産技術と動力機関とが結合することで工業文明が起こり、人間社会の生産性が飛躍的に大きくなったことです。

 人間という動物種の現在の繁栄の特異性は、第二、第三の要因、つまり人間が高度な社会性を持ち、道具や資源を利用しながら環境に対して積極的に働きかけを行っている点です。特に第三の要因が西暦1000年以降現在まで継続している爆発的な人口増加の主要な要因です。

 現在の「人類の繁栄」は完新世の温暖で安定した平穏な間氷期の特殊な条件下で食糧の増産を背景に、一気に拡大したもので、このように単一の比較的大きな動物種がに急激に数を増加させることは、極めて異例なことです。成り行きに任せてしまえば、人間社会繁栄の基盤となる食糧生産能力の限界とそれに伴う限界的農地の砂漠化によって、おそらく遠くない将来に終焉に向かう破局的な崩壊が始まると考えられます。

 上図は南極氷床コアの分析から求められた過去40万年余りの期間の気温、大気中CO2濃度、粉塵量の経年変化を示しています。図から分かるように約10万年の周期で相対的に気温の低い氷期と、相対的に暖かく短期間の間氷期が繰り返されています。いま私たちが暮らしているのは図の左端の間氷期の終盤だと考えられます。現在の間氷期はおそらく近い将来に終焉を迎え、寒冷で激しい気候変動を伴う氷期に向かうことは避けられません。
 付け加えておくと、上図を見ると寒冷期には粉塵量の増加がみられます。これは、気温の低下に伴って水循環が低下し、降水量が減少することで地表面環境が乾燥化することを示唆しています。寒冷化はそれだけで地表面環境の砂漠化を進行させる要因になります。食料生産の逼迫による限界的農地の酷使と寒冷化が重なると、砂漠化による食糧生産基盤の崩壊は急速に進む可能性が高いと考えられます。

 現在の文明は工業的なエネルギーの大量消費に支えられたきわめて特殊な文明であり、しかも氷期を経験したことがありません。現在確認されているエネルギー資源の可採埋蔵量は、現在の水準で消費を続ければ1000年を待たずに枯渇することになります。
 私たちの子孫たちは否応なく、ポスト工業文明を生きざるを得ないのです。彼らは寒冷で激しい気候変動を伴う10万年近く継続すると考えられる、来るべき氷期の大半の期間を工業的なエネルギー消費なしで過ごすことが必要になるのです。

 そこで、人間社会が今後も安定的に生き延びるためには、工業的な技術に過度に頼らない、主に地球の生態系の中で更新的に得られる資源で人間社会を安定的に維持するための仕組みを構想することが必要です。そのために、現在の工業文明社会の持つ限界と問題点を明らかにし、来るべき寒冷期を生き延びるための人間社会の生存戦略を考えることが必要であり、それが環境問題を考えるということなのです。

 このホームページで何度も触れていますが、私は環境問題を考える上での大前提として、絶対平和主義をとります。自らの生存のためには弱肉強食の殺し合いを是認するというのであれば、食料生産の減少に伴って凄惨な軍事侵攻による暴力的な人口調整による混乱と更新性資源の生産の場となるべき地表環境の荒廃が不可避だと考えるからです。そうではなく、有限の資源を分かち合い、生態系の更新性資源の生産能力に見合った規模、システムを持つ人間社会にソフト・ランディングするためにこそ、環境問題を考える意味があると思います。
 この点については、熱物理学者の槌田敦さんの著書「新石油文明論」(2002年、農文協、129頁)の記述を紹介しておきたいと思います。


 3.寒冷化で恐ろしいのは侵略戦争

 砂漠化は,人間の行為によってもたらされたものであるから,人間の対策で解決することができる。しかし,寒冷化は人間の力では防ぐことはできない。地球の気象を変えようとする努力は人間のおごりである。古代文明において,「バベルの塔」の伝説が実際にあった話ではないにしても,当時の人々が天候を変えようという気持ちを持ったことの証拠ではある。現在では,多くの人々は気象を変えたいと願い,「地球温暖化防止」と叫んで「天に向かって唾する」行為に一生懸命になっている。
 寒冷化については,これを受け入れるより仕方がない。その場合,第4章でも述べたが,
古代文明以後に3回襲われた寒冷期には,北方民族による侵略戦争が繰り返された。次の寒冷期でも同様の悲劇が待ち構えている。現状では,この北方民族の指導者は「地球温暖化防止」と叫び,その防止策を世界に強制しているが,温暖化ではなく寒冷化したとき,北方民族が不幸な民となることは避けられない。
 せっかく,熱帯と温帯の砂漠を豊かな生態系にすることができて,世界全体としては寒冷期に耐えられる環境を回復できたしても,社会の仕組みを変えることができなければ,またも大きな不幸としての北方民族による侵略戦争が始まることになる。
 寒冷化に耐えられる人間社会の仕組みを変えるには,付章で詳しく述べるが,活動維持に関する5つの条件を真剣に考えて,侵略戦争でなく解決できる人間社会に「遷移」する必要がある。どのようにすればよいのか,現状ではまったくわからない。それは実際に寒冷化の兆しが感じられてから,議論が始まることになるのであろうか。
 その場合,砂漠化した熱帯と温帯を豊かな生態系にするとしても,北方民族の侵略を誘発するような成果を上げないことが大切であろう。ほどほどの豊かさを得ることを目標としたい。



No.1237 (2018/10/17) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄@
No.1239 (2018/10/24) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄 番外編
No.1249 (2019/01/11) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄B


 

No.1244 (2018/11/14) 流体力学シミュレーションの適用限界を考えるC
気候長期予測シミュレーションは流体力学方程式の適用限界を逸脱している

 さて、連載も4回目になりましたので、一応今回の連載のまとめを行っておくことにします。数学的、あるいは物理学的な厳密性には多少目をつぶっていただいて、なるべく誰にでも理解できる説明になるようにしたいと思います。

1. 大域的な気象現象の予測に対して、Navier–Stokes方程式を適用することはできない。

 これにはいくつもの理由があります。

 前回の質疑応答で紹介したとおり、Navier-Stokes方程式は粘性流体に対するニュートンの運動方程式の近似式です。ニュートンの運動方程式の大前提を思い出さなければなりません。ニュートンの運動方程式は慣性系における質点の運動と力の関係を示したものです。
 慣性系とは、慣性の法則、すなわち「力を受けない物体は永遠に静止し続けるか等速直線運動を続ける」ような空間です。また、質点とは質量と空間的な位置だけが定義された体積を持たない仮想の点です。
 ところが、地球は銀河系の外縁に近い太陽系に属する惑星です。銀河系は宇宙のどこかにあるかもしれない絶対静止系の中心に対して公転しながら自転しています。さらに太陽系も銀河系の中を自転しながら公転しています。更に地球は太陽の周りを公転半径や地軸の傾きや位相を変化させながら公転しながら自転しています。したがって、地球に固定された座標系は絶対座標系や慣性座標系に対して非常に複雑な加速度運動をする加速度座標系になります。したがって、厳密には地球上ではニュートンの運動方程式は成り立ちません。

 とはいえ、Navier-Stokes方程式が全く役に立たないわけではありません。問題になっているのは地球に固定された座標系が加速度座標系であり、地球に固定された座標系で記述された運動には慣性系で記述した運動では働かないはずの仮想の力である慣性力(例えばコリオリの力、遠心力など)が働く様に観察されることです。
 したがって、地球に固定された座標系から観測した物体に対して働く力に比較して、慣性力が相対的に無視できるほど影響が小さい場合には、ニュートンの運動方程式やNavier-Stokes方程式を便宜的に使用しても近似的、実用的に十分信頼できるでしょう。
 具体的には私たちが日常生活で直接自分の目で観察することのできるような空間的・時間的な規模の運動であれば、地球に固定した座標系で記述した運動に対しても近似的にニュートンの運動方程式が成り立つと考えて差し支えありません。

 ところが、対象とする運動の空間的、時間的なスケールが大きくなると次第に誤差が大きくなります。物騒な例ですが、長距離砲弾の軌道計算では、単純にニュートンの運動方程式を適用することは困難です。砲弾自体は質点と考えても差し支えないでしょうが、砲弾の飛翔距離が長くなると発射と着弾の時間差と地球の自転運動の影響であたかも砲弾に進行方向に対して直角の方向から力を受けて軌道が曲げられているような運動として観察されます。この「見かけの力」がコリオリの力あるいは転向力と呼ばれる慣性力です。
 質点とみなせる砲弾の軌道計算のような単純な運動の場合には、ニュートンの運動方程式に慣性力を実在の力のようにこっそり組み込むことによって砲弾の運動を表すことができます。

 しかし、流体の運動では問題が複雑になります。流体は体積を持たない仮想の質点ではなく、有限の体積を持つ連続体であり、様々な属性を持っています。しかしニュートンの運動方程式は力と質点の運動以外の属性をすべて捨象することで導かれています。ニュートンの運動方程式であらわされる運動は可逆的な現象です。
 Navier-Stokes方程式は、粘性流体という連続体の中に「流体粒子」という均質で一つの密度、粘性が定義できる程度の微小な直方体を仮定して、粘性流体を構成する分子の実体を捨象したうえで、ニュートンの質点に対する運動方程式を当てはめることによって導かれています。
 しかし実際には、流体粒子とは多数の分子の集合体です。流体粒子はただ運動するだけの質点とは異なり、その中では熱力学現象、化学現象、電磁現象などの物理化学変化が存在し、総体としての挙動は不可逆的です。さらに流体粒子は強固な外殻で閉鎖された領域ではなく、運動する過程で系外と相互に混合・拡散して時々刻々とその性質が変化します。
 
大気の運動であれば、例えば加熱した地表近くで軽くなった大気=分子運動が活発になり体積が膨張した大気は、単に密度の小さい大気という外形的な形でしかNavier-Stokes方程式に反映されません。また、上昇する湿った大気は減圧による体積膨張による温度低下によって露点に達すると水蒸気が凝結するという相変化が起こり、体積・気圧変化が生じ、凝結熱を発することになります。赤外活性気体を含む気体は電磁現象によって内部エネルギーが変化します。
 Navier-Stokes方程式には陽な形で表れないこれらの流体粒子に内包された物理化学現象による温度をはじめとする状態量の変化は流体粒子の運動にかかわる粘性や密度などを非定常に変化させ流体の運動を変化させます。
 しかし、
流体粒子の運動に直接かかわりのない現象やそれにかかわる物理量を捨象することによって構成されているNavier-Stokes方程式では流体粒子の内部で起こる物理化学現象を反映することはできません。その裏返しとして、Navier-Stokes方程式から得られた流体の運動状態から、流体粒子の中で起こっている様々な物理化学現象に対して合理的かつ矛盾のない状態を一意的に決定することは不可能です。
 質量以外に個性を持たない質点という仮想の物体に対する力と運動についての関係を記述した可逆的なニュートンの運動方程式のアナロジーとして、有限の体積を持ち、内包する物質に起こる様々な物理化学現象による変化を伴い、変形・混合しながら運動する流体粒子の不可逆的運動に拡張したところに本質的な混乱の原因があるのです。

  したがって、Navier-Stokes方程式は、慣性力の影響が無視できる程度の空間的、時間的なスケールで、しかも流体内で起こる物理化学現象が流れに対して大きな影響を与えない場合に限って適用することができると考えられます。
 地球規模の気象現象の基礎となる大気の運動は、慣性力の影響が大きく、大気の温度、湿度、電磁現象などの影響を強く受けるため、一般的にはNavier-Stokes方程式の適用範囲を超えると考えられます

2. Navier-Stokes方程式の数値解析に伴う問題

 1.で述べたとおり、そもそも全地球規模あるいは日本の気象予報に使用する天気図の範囲をカバーするような大域的な気象現象に対して、Navier-Stokes方程式に基礎を置く数値シミュレーションを用いることは適用範囲を超えています。
 それでも「数日先の気象予測精度はずいぶん上がったではないか!」という反論が聞こえてきそうです。しかし、「一週間先の予報が的中することはほとんどない」というのも現実です。
 この点については、前回の中本さんの解説にあった『データ・アシミレーション(Assimilation,モデルの値をデータに同化する)』によって実現されていることであり、これは数値計算結果を実際の観測値で置き換えるというカンニング行為を行っているからであり、本来のシミュレーション技術の向上とはかかわりないと考えられます。

 話を元に戻します。現在大域的な気象シミュレーションで用いられる大気の領域分割を見ておきましょう。理化学研究所の2015年のレポートから引用しておきます。

 この10年間で格子幅が数100kmから数100mに「高解像度化」したと誇示しています。しかし、数100mの格子の中に含まれる空間はNavier-Stokes方程式の対象としている流体粒子とは比べ物にならない巨大な体積であり、その中に含まれる大気の運動の性状を格子点のパラメータだけを用いて適切に表すことなど全く不可能です。これでは、たとえNavier-Stokes方程式が流体粒子の運動を正しく表現できるとしても、数値モデル化の段階でまったく台無しになってしまうことは当然です。現在の気象シミュレーション数値モデルは子供だましのコンピューターゲームといわれても仕方がないでしょう。

 さて、問題はまだまだあります。Navier-Stokes方程式によって得られた流れの性状から得られる情報だけでは、格子領域内部で起こっている様々な物理化学現象をモノノコトワリとして一意的に決定することはできません。また前述の通り、格子領域の巨大な空間内の物理化学現象を格子点パラメータだけで適切に説明することは不可能です。
 したがって、Navier-Stokes方程式によって得られた流れの性状と気象現象で重要な情報である温度、湿度、降雨量などの値を関連付けるために、自明のモノノコトワリではない「仕掛け」をプログラム設計者が恣意的に組み込む必要があります。したがって、気象シミュレーションは現実の気象現象の物理(モノノコトワリ)を模倣しているのではなく、プログラム設計者によって作られた虚構の世界=コンピューターゲームにすぎないのです。

 次に時間方向のスケールの問題です。一般的な非定常・非線形な現象を対象とした時間発展型の数値シミュレーションでは、時間方向に変化を細かく分割して現象を追跡することが必要になります。現象の時間変化に対して適切な時間間隔で追跡しなければ大きな誤差を発生することになります。

 例えば、黒の実線で示した曲線を時間追跡する物理現象F(t)の正解だとします。今、時刻t=0において、F(0)とその時間変化率dF(0)/dtを観測することができるとします。実際のF(t)の正解は分かりませんから、F(0)とdF(0)/dtを使って、現象をモデル化したプログラムで将来予測を行います。図では線形関数で将来予測を行っています。
 さて、図から分かるように、一般的に観測値が存在する時刻から予測する時刻の間隔が大きくなるにしたがって、正解と予測値の乖離が大きくなります。そこで、なるべく短い時間間隔で将来予測を行います。その結果から得られた物理量で数値モデルのパラメータを修正して更に将来予測を行います。これを繰り返すことで長期間の将来予測を行うことになります。
 しかし、たとえ数値モデルが実際の物理現象を正しく模倣していたとしても、所詮、数値解析とは解析解が得られない問題に対して数値的に近似解を求めることであり、繰り返し計算の増加によって誤差が蓄積し、次第に現実との乖離は拡大していきます。気象予測数値モデルのような欠陥モデルでは、到底長期間の将来予測には耐えられません。

 一方、たとえ出来の悪い数値モデルであろうと、実際の観測値でパラメータを修正(『データ・アシミレーション(Assimilation,モデルの値をデータに同化する)』)した直後の短期間は実際の現象との乖離は小さく、見かけ上精度の高い将来予測ができます。したがって、少々出来の悪い数値モデルであっても短期間の気象予報、具体的には2,3日程度の予報であれば一般大衆から苦情が殺到しない程度の精度(笑)の予測はできるのです。しかし、一週間先の天気予報を信じる人はほとんどいないのが現実です。

 さて、気象数値シミュレーションで「過去の気象現象を再現できた」ということをよく聞きますが、実際にはうまく再現できているかどうかを検証することさえ不可能なのです。過去の気象の状態としてデータが存在するのは地球表面の限られた気象観測点のデータにすぎません。気象予測モデルは対流圏大気を対象としてモデル化しています。したがって、地表面だけではなく対流圏大気のいたるところで現実大気の観測結果を適切に表現できている解が得られることがシミュレーションが正しいと判断するための必要条件ですが、現実には比較対照すべき観測値は存在しないので、解の精度を検証することは不可能なのです。パラメータをいじって地表面の観測データの再現だけに血道をあげても、数値モデルの改良とは無縁な自己満足にすぎないのです。
 現在の気象予測シミュレーションでは、前回の中本さんの解説にある通り『現在のすべてのIPCCモデルの結果は、上層大気の温度シミュレーションが観測に合いません。 IPCCが公開している気温の鉛直断面図で、熱帯上空を見ると、分かりますが、熱帯上空で観測結果とモデル結果が全く異なります。』というのが現実なのです。

 昨年夏の九州北部豪雨について、NHKスペシャル「異常気象・スーパー台風」という番組がありました。その番組に登場した名古屋大学の坪木和久氏(地球水循環研究センター気象学研究室)は、「日本の最新鋭の高精度の気象予報モデルによるシミュレーションでさえ九州北部豪雨を予測することができなかった。温暖化による異常気象はそれほどまでに異常になってきている。」という趣旨の発言をしていました。これは誠に噴飯ものというべきコメントです。
 現実に起こっている気象現象は、それが観測史上初めての稀有な現象であろうと、当然のことですが100%物理的に(モノノコトワリとして)正しい現象です。彼のコメントは「日本の最新鋭の高精度の気象予報モデルによるシミュレーションは、ほんの半日先の集中豪雨という激烈な気象現象でさえまともに再現することができなかった。」ことを告白しているのであり、完全な敗北宣言でした。
 つまり、現在の最先端の数値計算技術の粋を結集した気象予報シミュレーションでも、九州北部地域程度の範囲で起こる激烈な気象現象については、2、3日どころか半日先の予報でも全く役に立たないことが事実によって検証されたということなのです。

 

No.1243 (2018/11/09) 流体力学シミュレーションの適用限界を考えるB
流体力学方程式についての素朴な疑問

 二度にわたって、中本正一朗さんの流体力学方程式に関する論文の内容について報告してきました。私自身は土木の構造屋なので、構造物や弾塑性連続体の応力解析で微分方程式の数値解析における離散化の手法や、数値計算を経験しているだけで、流体に対する数値解析を直接経験しているわけではありません。流体力学方程式、Navier–Stokes方程式については、土木科の科目の一つとして学んだ水理学において、基本的な考え方を教わったくらいです。
 そのようなわけで、どうしても私は応力解析のアナロジーとして理解しようとしてしまいます。応力解析では連続体の物性の不連続に変化する点、あるいはひび割れなどが存在すると、応力場は滑らかな関数で表現できないために、思わぬ大きな誤差を生じることになります。それでも応力解析という定常解(時間経過に対して変化しない解)を求める問題であれば、予め特異性のあらわれることが予測される場所に対して特別の領域分割や仕掛けを組み込むことで大きな誤差を回避することもできます。
 こうした私の経験からは、地球全体をカバーする巨大なスケールで起こる気象現象という非定常な問題――いたるところに不連続面や特異点が動的に発生・消滅・移動を繰り返すような問題――に対して、微小な流体粒子の挙動について記述した非線形偏微分方程式を用いた数値計算で適切に時間発展的な挙動を長期間にわたって追跡するなどという発想は、「荒唐無稽」としか形容しがたいと思っています。

 そのようなわけで、流体力学方程式について素人の私が抱く素朴な疑問について、中本さんとのメールのやり取りで、少しでも理解を深めようと考えています。中本さんから許可をいただいたメールについて、順次このコーナーで紹介していきたいと思います。また、疑問や意見のある方はご連絡いただければ、それも聞いていきたいと考えています。今回は5項目について回答をいただきましたので、以下に紹介します。


問1:ナビエストークスの方程式は、粘性流体に対するニュートンの運動方程式であると理解してよいか?

回答
 
はい、そうです。
 ナビエやストークスが生きていた時代はニュトン力学の全盛期で、あらゆる観測現象を
(質量m)X(加速度a)=〈力F〉
で決定する方法(何事でも要素に還元して、要素の軌跡をF=maで書き下す料理本レシピの方法)が流行していたのです。

 物理の眼鏡をかけると、我々は「F=ma、すなわち力Fが流体粒子を運動させる」という写し絵を頭に描きます。これが物理の認識法です。ところが、電磁気学の数学や量子力学は、はじめは観測対象の現象記述から始まったのですが、しかし「観測対象にはたらく力が原因でその結果観測対象の位置が移動する」という普遍言語の形式ではなく、「絶対空間の各場所に力の素が埋め込まれている」とする形而上の思想に染めこまれたのだと私は思います。これが「場の思想」です。マックスウエル方程式は電磁場を表現する連立微分方程式です。マクスウエルはこの電磁場の方程式を作ったにもかかわらず、「それでも(ニュートン先生が教えたように)力が電極や磁極に働いているのだ」と思いたかったそうです(どこかで読んだのですが、どの本かはおもいだせません。私が物理学科3年生で受けた流体力学の数学がマックスウエルの電磁気学の数学と大変によく似ていたことに不思議に惹きつけられたことを今思いだします。)以下の解説にも書きますが、ニュートン力学で記述する質点の力学はポアンカレの位相空間で有限次元の軌跡ですが、電磁場や量子場は位相空間ではなくヒルベルト空間で無限次元の軌跡のはずです。つまり、ニュートン力学は観測対象の内部構造には踏み込まずに、有限個数の観測対象の状態(位置と速度)を同時に決定する時空の幾何学です。しかし、電磁気学や量子力学は無限個数の場の量が、すでに空間に備わっているように表現されています。

解説:
 ナビエストークス方程式の数学言語の構造は、我々の認識を誤らせる材料が満載されています。満載された数学言語の構造というのは、「観測された現象をまず記述し、その次に我々が頭に作りあげる観測対象の写し絵を普遍言語で表現するため微分方程式のことです。本当は、普遍的な数学言語を自分で使って(微分方程式を導いて)みれば、簡単に実感しやすいのですが。ここでは簡潔に我々の認識を誤らせる素を私が思いつくままに列挙します。
誤解の素@:
 
前者(観測現象の記述の段階)では経験から得られた帰納的な法則で、後者は普遍的な数学言語で我々の頭に書かれた写し絵の演繹的な法則です。われわれは後者を物理法則と呼ぶことがありますが、これが危険の素です。例えば、前者は質点の質量と加速度の積が質点に働く外力に等しいと言う、物理(われわれが観測する現象のコトワリ)ですが、後者はナビエストークスの微分方程式という数学言語を用いて、加速度イコール力という形式で表現されているからで、こうするとナビエストークス方程式の左辺の非線形項が質量を持つ流体粒子の加速度(慣性加速度)が力学系理論(Dynamical System) で重要な役割を果たすことに気がつかない危険があるのです。
誤解の素A:
 
我々が観測している流体や気体などの連続体(有限体積を持つ観測対象が変形しない)は、外部環境と熱や物質を交換するから、観測対象の質量は時間と空間に依存します。ところが、ナビエストークス方程式も(オイラー方程式も)観測対象の質量を時間空間で変化させる記述を捨てて(廃棄して)います(いや、捨てると言うよりは、「有限の大きさの粒子物体などは存在しない幽霊」だと嘘ついて抹殺しているというほうが分かりやすい)。このことをわたしは「流体粒子の密度を他所からこっそり密輸してくる」と表現したことがあります)。このことはニュートン力学で表現する古典力学系理論では大変に重要です。
誤解の素B:
 
現象の記述の段階では、質量と流れの移流ρ(x,y,z,t)u ∂u/∂xであったのに、この項はナビエストークス方程式では流れの非線形性u∂u/∂xで表現され、しかも絶対時間と絶対空間座標で書かれています。こんな数学眼鏡だけをかけていると、「流れの強さの性質(非線形)と流れる物体の性質(密度を持つ有限の大きさの粒子)と時空座標の相互作用」を見逃すことがあります。(このことはベナール対流現象をカオスの方程式の形に表現してみれば、νt/κ, ΔTαt/κν, など時間座標と流体の性質が一塊になって現れることから分かります)。観測対象の現象(の物理)に無頓着になると「コンピューターコードを運転すれば未来が予言できるような気になります。
誤解の素C:
 
ナビエストークス方程式に現れる非線形性と粘性のいずれも実験で決める方法は確立しているのですが、いったん決めた非線形パラメータと粘性パラメータの大きさや形の微少な差によって、流れの分散性と散逸性のいずれが実現するかを、ナビエストークス方程式は決定できません。(分かりやすい例は、前者はソリトン波を実現させ、後者は乱流を実現させることです)。
誤解の素D: 
 時間可逆のニュートンの力学を流体粒子にあてはめながら、熱の物理や電気磁気物理や量子物理を、ナビエストークス方程式の2つのパラメータ(密度と粘性)の陰に隠したために、ナビエストークス方程式は、時間可逆性(絶対時間と絶対空間の反転対称性)と時間不可逆性が入り組み、その結果ナビエストークス方程式の数学構造は完全に2つの現象論的パラメータに完全に支配されたのです。このためにナビエストークス方程式の解析学的研究(非定常問題の解の大域性と、一意的存在の問題)は未完成です。そのために微分方程式の幾何学的研究(カタストロフ理論やポアンカレ以来の力学系理論)が流行ってきましたが、それでもナビエストークス流の流体力学系の微分方程式は多元すぎて、いわゆる位相図上の流線がいくつにも入り組んでしまいます。いわゆるフラクタルの出現で、ますます泥沼です。ここで言う「解の大域性とは「位相空間で描いた解の流線の全長にわたって」という意味です。
 ナビエストークス方程式を中心に据えた流体力学系の連立方程式困難の原因はどこにあるのか?――「我々の観測する現象(物理)をわれわれが数学的普遍言語で書き換えたときに失ったモノ(実存)は何か?」を考える時期ではないかと私はおもいます。

参考文献は、
ラジゼンスカヤ:非圧縮粘性流体の数学的理論、産業図書1979
Tim Poston and Ian Stewart, Catastrophe Theory and its Applications, PITMAN, 1978

付録1:
 ニュートン力学F=maは時間可逆ですが、ナビエストークス方程式は巨視的な流体粒子(大きさをもち、しかも隣の粒子と時間不可逆な熱的・物質的な相互交換作用をしている、これが私が強調したい物理の眼鏡)を対象にした時間不可逆の数学表現に書かれています。しかも、現象論的なパラメータに大変に敏感な構造(不安定構造)です。構造安定という言葉はすでにカタストロフ理論で使われていました。
 ここで我々は「物のコトワリ(物理)」を持ち込みます。流体粒子の中心の位置と速度を瞬間的に決めるだけなら、ニュートン力学の微分方程式を解けばいいのですが有限時間経過すると、流体密度mが変化します。また、流体粒子は大きさをもつので、巨視的尺度でも隣の流体粒子と力学的相互作用を行なうだけでなく、ミクロ(電気的、化学的、量子力学的)尺度の相互作用もあります。ところがナビエストークスの式はこれらをすべてひっくるめて、巨視的な粘性という現象論的なパラメータで代表させます。つまり、ミクロ尺度の多くの自由度を持つ流体力学系では、隠れたすべてのパラメータを指定することは(計算メモリーを超えるので)不可能ですから、巨視的な現象論(平均値、分散、などいわゆるミクロ尺度の統計量)で代表させるのです。

付録2: 
 
ニュートン力学と全くことなり、経験的現象を総括的に記述する方法がカルノー、クラウジウス、ギッブスの熱学です。原子論が出て来たあとで、ニュートン力学の視点(点状粒子の位置を決定する時間可逆性法則)で説明しようとする試み(統計力学)に繋がります。

問1-2:加速度系である地球全体を対象とする大域的な流体運動シミュレーションに対して、そもそも適用が可能なのか?

回答
 否です。

「大域的な流体運動」とは「点状の粒子が、地球尺度の距離を移動することだ」と解釈する人(例えば、戦前の気象学者が千葉からオレゴンまで飛ばした風船爆弾の軌道予測をした日本の気象学者)にとっては実用上は可能だったのかもしれません。しかし、巨大マスメデアの報道記者に対して物理法則を使った気候温暖化シミュレーションコードで地球の将来の気候を予言するなどと呪いに掛け、過去100年かそこらの地上気温の上昇は化石燃料の燃焼に原因があると結論する目的だけのために「大域的シミュレーション」の道具に使うことには私は同意いたしません。
 この種の呪いの道具は時間可逆のニュートン力学と時間不可逆の熱力学を恣意的に混ぜ合わせていると言う意味で力学系の理論の研究には大きな弊害をおよぼします。
 厳密な力学系理論の参考文献は
Gerald looss and Daniel D. Joseph: Undergraduate Texts in Mathematics., Elementary Stability and Bifurcation Theory, Springer ISBN 0-387-97068-1

問2:ナビエストークスの方程式で求めた流れの状態と、流体の温度の関係はどのように関連付けるのか?

回答
 これが、「われわれは流体力学とどう付き合うか?」に書いた@、A、Bで、現在の流体力学系の方程式の致命的欠陥です。
 沿岸の海洋循環モデルでも、海洋大循環モデルでも、大気の大循環モデルでも、もっと小さい尺度の海洋や大気モデルでも、「ナビエストークス方程式は温度を密輸し、温度拡散方程式は流れベクトルを密輸」してきています。私はJAMSTECで旧科学技術庁の国産海洋大循環モデル構築計画を提案したとき(1992年)に、このことが気になりました。また、2007年に琉球大学で開かれた日本海洋学会で、この問題を問うシンポジウムを私が提案し、私1人で開催したのですが、私のシンポジウムを冷やかして参加してくれた海洋学者は数人(数値流体モデルを経験したことがないような人が3 人だったか?)でした。つまり、職業科学者たちは、(前回の私の「我々は流体力学と如何につきあうか?」に@、A、Bとして挙げた)連立微分方程式間の密輸)(連立微分方程式同士でお互いに流速と温度を「密輸し合っていることに、すこしも気にならないのでしょうか。ここでも繰り返しますが、力学系理論を研究する数学者たちは時間可逆のニュートンの力学と時間可逆の熱学をそう簡単に連立させたりはしていません。

問3:数値解析において、解の微係数が定義できない不連続面や特異点を含む領域はどのように処理するのか?

回答
 おそらく、このことは、飛行機の翼の周りの渦の剥離や、流れの速いところでできる渦や、また竜巻や、台風の中の流れなどを、職業科学者たちがどう扱い、どう理解しているのかを問われているのだと私は想像したします。
 1980年から1990年まで私が付き合った人々から、私はいろんな考えをに接触して、学んできましたが、まず私の結論は、「ナビエストクス方程式(の性格)は近似式です。もしナビエストクス方程式の予言が現実の現象に合わない場合は、現実の現象をナビエストークス式の数学言語形式に嵌め込む理屈(合理的理屈または、非合理的でもその場しのぎの理屈)を発明して仲間内だけで自己満足します。仲間以外にはここの秘密は〈訊かれない限りは〉わざわざ公開はしません。しかし、職業科学者たちがこの言い訳をして満足している間は、流体力学はいつまでたっても政治家に研究資金をねだる御用聞き学者の商売道具でしかないと私は思います。私はJSAMSTECにいたころに、デカルト発明(?)の直角の座標を使わずに、等密度座標系(鉛直方向の密度面を座標に採用した数学技法)を開発していましたが、当時は日本では私だけが使っていたこの技法(等密度座標)の有効性と限界を千葉の電力中央研究所や神奈川の日立スーパーコンピュータ工場支社で招待講演し、またこの技法の詳細を旧科学技術庁の高度情報計算科学研究機構の雑誌上で公開する記事を書きました。

問3−2:液体や気体の運動現象に生じる不連続面、特異点は時々刻々とその位置をダイナミックに変化させることになると思いますが、どのように処理するのでしょうか?

回答
 私は気象モデルを運転した経験がありませんが、JSMSTECでの私の経験にもとずくと、モデルを運転した結果、もし目的以外の結果がでてきたら、「それはモデルのパラメータの大きさが悪いためだ」と決めつけて、悪い結果を消す仕掛けを計算コードに仕組みます。このようにモデルを弄ることは業界用語ではモデルを小突いて手懐ける(ナッジング)や同化(アシミレートとカタカナ言葉で呼べば自己の罪意識を忘れます)などと呼ばれます。このような小細工は、(IPCC報告書の主筆をしているマイケル・マン教授がやったような観測データ改竄のインチキではなく、)モデルの出力を観測データに近づくように調整する技法で、1960年代から気象や海洋の数値流体シミュレーション業界で受け入れられていた技法です。しかし、観測値に合わせるという合理化だけを狙ったこの種の技法は、現実の海水の物理(モノゴトの理屈)を無視し、結果だけ現実の観測値に合うような仕掛け(技法)を発明しているのです。この発明がうまく行けば、論文の数が増えるだけでなく、世界中の同業者が真似してくれるから、その業界で有名になれます。

問3−3: 不連続面となる例えば熱帯収束帯や亜熱帯収束帯、特異点になる低気圧中心付近では激しい気象現象が起こると考えられますが、合理的な解が求められるのか?

回答
 政治家を騙す解をいくらでも捏造できるだけです。これまでに私が気象学者たちとの交流で得た知識で私の感想をお伝えいたします。まず、「ナビエストークスの運動方程式と熱力学のエネルギー保存式を連立させた流体力学系の方程式は、層流から対流を経て乱流へ移行する現実の現象を真似できる保証は無い」ということです。このことは、ナビエストークス方程式の構造不安定性と呼ばれています。
 ナビエストークス方程式を中心に据えた流体力学系の一連の連立方程式では現実の現象を真似する保証がありません。
 そこで普遍的な数学言語の構造はそのままにしておき、現実に観測できる値だけを、観測値で修正する思想を徹底すると、データ・アシミレーション(Assimilation,モデルの値をデータに同化する)という現象予言の道具ができあがります。データ・アシミレーションの技術を使うと、現実の観測データに同化させた直後なら、ナビエストークス方程式の答えは現実の観測データから大きく離れないから、現実の使用上では我慢できるのです。しかし、このことは、「もしデータに同化させないならば、われわれはナビエストークス方程式の入った流体力学系の時間発展方程式は何をするのかわからないで使っているから、現在から将来を予言することはできない」と気象予報の現業界の科学者が主張していることを意味します。
 ナビエストークス方程式と熱力学方程式をつかって熱帯の対流の仕組みの数学構造を計算して実感することは2010年ごろから、沖縄高専の機械システム工学科5年生の応用数学IIの授業と、沖縄高専専攻科1年生の応用解析学の授業で扱いました。この計算式を自習するのに最適なのは、丹羽敏雄: 微分方程式と力学系の理論入門の175ページから180ページに導いてあるローレンツ方程式(やかんのお湯の対流現象の物理の一部分だけを切り出した3元の連立微分方程式)です。これは5つの巨視的な現象論的パラメータ(系境界での温度差ΔT、流体密度ρ、粘性ν、熱膨張係数α、熱伝導係数κ)を使って巨視的な対流現象をシミュレーションする流体力学系です。このローレンツ式の解の性格は、パラメータαΔT/(νκ)の大きさによって大きく変わることが証明されています。つまり、数学構造に隠されたミクロの物理に支配されて現れる現象論的パラメータ(α、ν、κとΔT)がマクロな現象(やかんのお湯の層流から対流を経て乱流にいたる現象)出現の引き金を引くのです。

問4:圧縮性の粘性流体を扱う場合、流体粒子の密度ρ、粘性ν、温度T、圧力Pは相互に関連し、しかも流れの状態を受けるので、高度の非線形性を持つことになるが、整合性のある解を得ることが可能なのか?

回答
 いわゆる竜巻や、深海の海流や、衝撃波を扱う場合ですね。竜巻の数値シミュレーション模型の構築をやっている人たちがアメリカにいますが、どのくらい成功しているのか私はしりません。でも、データ改竄などのインチキさえしなければ、その場しのぎの間に合わせの方法をつかってでも、今すぐ使える短期間の気象予報の目的では、現象の予言が当たればそれでいいのです。しかし、ナビエストークス方程式の構造安定性が証明できないかぎりは、たんなるその場しのぎの技巧開発で終わってしまうと私は思うのです。このことは
FITCH, MARLOW, DEMENTI 著 CRITIAL PROBLEM IN PHYDICS 1997年
や、
YAU著、Asymtotic solutionsトDynamics of Many body Systems and classical continum Equations
にも書かれていました。

問5:気象シミュレーションでは、気温や降雨量が重要な要素となると思いますが、大気運動のシミュレーション結果と祖語のない合理的な関係が定義可能なのでしょうか?

回答
 気温の鉛直分布は空気の塊に働く浮力を決定します。対流圏の頂上で、積乱雲は雨粒になり、水蒸気が地上から運んできた熱エネルギーは対流圏上層にはなたれ、上層は温められます。
 現在のすべてのIPCCモデルの結果は、上層大気の温度シミュレーションが観測に合いません。 IPCCが公開している気温の鉛直断面図で、熱帯上空を見ると、分かりますが、熱帯上空で観測結果とモデル結果が全く異なります。IPCCという各国政府を代表する機関がこのような図を公開しているので、もしかしたら、このことを気に留めている物理学者や海洋学者や気象学者や政治家がいるのかもしれません。
 なぜ世界各国政府を代表する気象学者たちは熱帯上空の気温シミュレーションを間違えたのか?その理由はIPCCに集まった世界各国の気象庁が採用した大気モデルの全てが、熱帯の対流現象(気温、上昇気流、積乱雲、降雨)を表現する物理(モノゴトのコトワリ)がコンピュータ(モデル)に書かれていないことが原因です。
 現象論的なナビエスト−クス方程式を据えた流体力学系の連立微分方程式の対流現象や粘性現象のパラメータが悪いのと、もしかしたらラジゼンスカヤの本の訳者があとがきで書いているようにナビエストークス方程式に最大の理論的障害が隠れているのかもしれません。それにもかかわらず、この国の巨大新聞の全面ぶち抜き記事や、巨大国営放送の「地球にやさしい環境特集番組」で、「物理法則と世界最速のスーパーコンピュータで、数年先、数十年先、100年先の温暖化を予言する」とこの国の職業科学者は言います。各国政府を代表するCO2温暖化モデルが熱帯上空で気温分布を致命的に間違えても平気でいるのにもかかわらずです。


参考:ラジゼンスカヤ「非圧縮粘性流体の数学的理論」の「序論」抜粋と「訳者あとがき」

訳者あとがき

「訳者あとがき」と序論に対する中本さんのコメント

●わたしは
「ナビエストークス方程式のどこが困難をもたらすのかを考えないままに、職業科学者たちはなぜ大ボスが開始したナビエストークスの流体系予測の計算コードをロボットのように運転するのか?」
が大変に不思議です。
 職業科学者たちにとっては、論文の数を稼ぐことが人生の目的になっているのかもしれません。また、ナビエストークス方程式の限界を指摘しても、仲間内の誰からも感謝されない(好かれない)こと、とくに天気予報のような、いますぐ役立つ速戦実用が主流を占める現業(の世)界においては、「ナビエストークス方程式のいいがげんな近似の限界」を指摘する論文を投稿しても、かえって嫌われて、論文掲載に大変な困難が生じただろうことは私には容易に想像できます。

●本日は
ラジゼンスカヤ:非圧縮粘性流の数学的理論(産業図書、1979)の
訳者あとがきに次の文章を見つました。
「(非線形編微分方程式の)理論的・一般的、厳密な数学解析的研究は、その問題のあまりの複雑さのために、従前はまとまった研究がなされなかったというのが、実際のところであるかもしれない」
「難問が山積みしているだけに、今後の発展が期待される」
「最後に、3次元ナビエ―ストークス方程式の非定常問題の解の大域的・一意的存在の問題が本書の終局的問題の一つであるが、いまだに未解決であることは、以上の方向の研究に対する最大の理論的障害となることを注意しておこう」
と書いてありました。

●私が日本で物理学を勉強するのを諦めていた1979年には、すでに日本の純粋数学の分野では
「ナビエストークス方程式の最大の理論的障害」
が指摘されていたにもかかわらず、私はこのナビエストークスの泥沼に足を踏み入れて、純粋数学者が指摘した議論の在処に私はようやくたどりついたのかもしれません。
 とくにソ連の純粋数学者の本は、読みやすくはないのですが、ラジゼンスカヤの訳本の6ページの下から7行目に
「ナビエストークス方程式を、統計力学のマックスウエルーボルツマン方程式から導く際に用いた、DmxVが比較的小さいとする仮定は満たされなくなるだろう」
とかいています。ラジゼンスカヤが言うDmxV というのが何を意味するのか、私にはわかりませんが、ボルツマンは
1.希薄気体で衝突の瞬間だけ相互作用する
2.境界では相互作用(熱交換、物質交換)なし
を仮定して、気体分子集団(すなわち流体粒子)の運動量保存則を導いています。したがって、「ボルツマンの仮定1と仮定2が、現在の乱流の実験や観測データに合わない」と私は主張したいので、ラジゼンスカヤの本の序論に書かれているDmxVが大変に気になります。

 ラジゼンスカヤの訳本の序論と訳者あとがきを添付いたしました、


中本正一朗

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