No.1254 (2019/02/15) 矢ヶア克馬/避難者通信57号
2011年3月11日以降の膨大な過剰死者数の原因は原発事故の影響

 矢ケ崎克馬さんの避難者通信を転載します。2011年以降の福島・相馬市の死亡者数の増加の原因は原発事故による環境の放射能による汚染と考えることが合理的ですが、国家・地方自治体・マスコミはこれを隠蔽し、オリンピックのバカ騒ぎによって忘れさせようとしています。私たちは日本という国の権力の棄民政策の本性をしっかり見極めておくことが必要です。


避難者通信57号  2019年2月14日
 皆様お元気でいらっしゃいますか?
 
(1)沖縄県単独事業として来年度も原発事故避難者支援を内定
 沖縄県から予算案が提示されました。
「支援は継続していただくことになりましたが、支援金額は増やすことができませんでした」
 
 名目が住宅確保支援から生活再建支援へと変わりました。
 
 2年計画で再来年度は半額になり、その後の予定はありません。
 
 キーポイントは以下のようなものです。(⇒は本年度から来年度への変更点です)
(事業位置づけ) 協調事業⇒単独事業
(名目) 住宅確保支援⇒生活再建支援
(対象) 福島県が実施する家賃補助決定世帯⇒上記+応急仮設供与(避難指定区域)終了者
(金額)月々1万円⇒年額12万円 (翌年度6万円)
(計上予算額)1300万円
(支給方法)精算払い⇒一括払い
 
 国や福島県と「協調事業」として行ってきた事業を単独事業として行うには相当な障壁があったようです。
 
 本年度で「協調事業」が終了した後に来年度「単独事業」として継続して支援するのは、おそらく他都道府県では行われず、沖縄県唯一だということです。
 
 原発事故避難者に対する沖縄県の人道に基づく支援に深甚な感謝を表明します。
 
 残念ながら、私どもの要請「1家族月3万円が、辛うじて実生活を支えられる目安です」の訴えは通りませんでした。また、支援対象が相変わらず福島県内からの避難者に限定されています。
 
 正式には県議会本会議にて決まります。
 
 つなごう命の会は避難者の実態調査を行い(2015年、2018年)、それをもとに沖縄県に訴えてきました。
 避難者通信55号でも「来年4月が真の苦難の始まり」と訴えてきました。
 
 昨年度、今年度と2年連続で沖縄県から1家族当たり月1万円の支援をいただきました。
 来年度も支援をいただけることが内定し、大変うれしく思います。
 
 避難者の方が、勤め人として家賃分(例えば月6万円)を新たに稼ぎ出すことは至難の業です。
 現実の経済的困難を避難者の方がどう克服できるかが大問題です。
 
「子ども避難者支援法」には、「避難者の意思により住むところが決定できるように」国は支援することになっていますが、事実は冷酷に切り捨てる兵糧攻めを行っているのです。
 
 事故後5年でチェルノブイリ法が施行され、本格的な住民支援が始まった、そのタイミングで、日本では避難者住宅支援が打ち切られたことを、私たちはしっかりと記憶すべきです。
 
 苛政は虎よりも猛なり。悪政を絶たねばなりません。
 
 国・福島県の、汚染が続くこと、死者が増加していることの事実と人権に背を向けた、民主主義国家ではありえない野蛮な行政措置に負けずに、沖縄の避難者の皆さん、全国の避難者の皆さんが、何としても凌いでくださることを祈るばかりです。
 
 このほかに、沖縄協同病院、医療生協、民医連さんには医療診察支援と避難者検診の支援をお願いし、実施していただいております。
 深甚な感謝を申し上げます。
 来年度も継続していただけるものと期待しております。
 
 
(2)3.11以降膨大な過剰死者数
 図1は全国(厚労省人口動態調査)、福島県(厚労省人口動態調査)、南相馬市(福島県ホームページ)の10万人当たりの死亡率の経年変化です。


図T 死亡率の経年変化

 
2011年以降の死亡率増は「少子高齢化」によるものか?。
 1998年から2010年までの変化を直線近似して黒の直線で示します。多少ばらつきはありますが、ほぼ直線的と言っていい変化です。
 ところが2011年で急激に増加し、それ3.11以前の直線から予想される値より増加したままです。
 2011年は総人口に基づいて計算すると全国でほぼ10万人の死亡者増加(総人口およそ1億2千8百万人)があります。
 東日本大震災による死亡者数(死亡者数+行方不明者数)は18446人ですので、8万人ほどの東日本大震災以外での死亡者が居ます。
 
 各種病の重症病人が放射線被ばく(内部被曝・外部被ばく)を受けることによって免疫力の低下などで死亡する、お年寄りが「老衰」死する、放射能被曝で放射線倦怠症により事故などを誘発して死亡する、すでに確認されている周産期死亡増などが絡んでいると思われます。この数は大問題ですが政府や専門家は沈黙の闇です。
 
 福島県の死亡率は緑色でプロットしてありますが、2011年以降の死亡増は全国の増加割合よりはるかに高いものです。
 
 これらは3.11以降福島県を中心に全国的に放射能が誘引した死亡増が展開している可能性を強く示唆しています。
 
 NHKでは2012年12月5日、番組「クローズアップ現代」で『お葬式が出せない どうする“葬送の場”』と題して「多死社会」という言葉を導入しています。
 
 全国及び福島県の総死亡率の変化は図に示すような経過をたどります。
 3.11以降の死亡増は「少子高齢化」という概念で予想されるカーブでは説明できません。すなわち少子高齢化では年々徐々に変化するのですが、現実は3.11で急増した後増えたまま予想直線と概略平行となっています。ということは、3.11で付け加わった新しい「死亡を増加させる原因」がそのまま除去されずに追加されたままで、2010年までの少子高齢化カーブに従うという経年変化カーブが形成されていると理解されます。追加されっぱなしの原因とは何でありましょうか?
 
 それは事故で分散された放射能がまず考えられます。山田耕作氏らによると(渡辺悦司ら「放射線被ばくの争点」緑風出版(2016))放出量はチェルノブイリの4.4倍程度と考えるのが妥当な量であるとされます。健康影響が及ぶ範囲は従来のICRPが主張していた「がん・白血病とごく少数の臓器機能不全」という過小評価はもはや成り立たず、放射線の作り出す酸化ストレスによる機能不全が全身に及ぶ多量な疾病を誘発し、放射線関連死は従来の概念をはるかに超えることなどが最近の病理学では明瞭になっています(吉川敏一「酸化ストレスの科学」診断と治療社(2014))。これらを考慮すると従来の犠牲者の数え方が如何に過小評価であるかを痛感します。
 
 全国総死亡者の増加数は2017年までの2010年以前からの予想直線から推察して30万人程となっています(この推定はあくまで直線近似に寄ります。直線は最小二乗法で決めています)。
 それだけの死者が政府の主張する「放射線による健康被害は皆無である」という主張により隠され、身近でバタバタと亡くなる人がいても「放射能がらみで亡くなった」ということを考えることさえ許されない状況が現出しているようです。
 これらの様相は報道されません。
 深刻な心筋梗塞や脳卒中の多い状況を見ても放射能のホの字も挙げられません(福島民報2018年12月20日)。
 最近では用語として「放射能」は禁句とされ、もっぱら「風評被害」のみが用いられる社会が形成されました。このような中で私たちはありのままの現実を見る目を保たなければなりません。
 南相馬市の死亡率は赤いプロットで示します。市の死亡者数を市の住民登録数で除して10万人当たりに基準化したものです。
 2014年までは福島県の死亡率とほぼ同じですが、2015年で急増しています。2015以降を2014以前と比較すれば率にして15%ほども増加しているのです。
 
 南相馬市立総合病院院長及川友好氏は同病院HPで「南相馬市の実人口は住民票数に関わらず2011年には周辺への避難により1万人を切るまで減少」という趣旨を述べ、2013年5月8日の衆議院震災復興特別委員会の参考人として「壮年層の脳卒中患者が震災前の3.4倍に増加」等と証言しています。
 住民実人口はその後回復しています。住民票の登録数は2011年の約7万人から2017年の約6万人に漸減しています。市民の自主的避難とは別に、南相馬市の居住制限区域及び避難指示解除準備区域は2016年7月に解除され、現在は小高区を除いて避難指示などが解除されています。なお、避難指示が解除された区域のうちの1中学校と3小学校が放射能基準値をオーバーしているために近接地域の学校で授業を行っている状況と聞きます。
 
 市の死亡率は住民票を母数として算出されていますので、住民票を市に置いたまま市外に避難している人も統計の中に含まれます。大多数の市民がいったんは避難し時間とともに帰還してきたという事実から推定すると次の仮説が成り立ちます。
 
 2011年から2014年まで、ほぼ死亡率が福島県のそれと同じなのは市の多数の人が避難して、より放射能汚染の低い土地(福島県内のより汚染が低い場所あるいは他府県)で暮らしている条件下の人も含めてで死亡率が福島全県とほぼ同率だった(2012年と2013年はむしろ福島県より若干低い値を示しております。2014年は福島県と同率です)
 2015年から急増して福島県の死亡率より高くなった原因は、大多数の方が帰還したことと放射性ストレスの蓄積等による効果と推察されます。被曝の多い「除染作業」なども関係するかもしれません。
 
 上記のように南相馬に帰還することにより2015年〜2017年の死亡率の増加がもたらされたとすると、まさに恐ろしいことです。死亡率の増加の原因は他にも考えられると思います。
 専門家は現実をとらえ、分析を進めてほしいものです。
 
 当該死亡率算出の詳しいことは
https://www.sting-wl.com/yagasakikatsuma30.html をご覧ください。
 
 安倍首相が「今までの今もこれからも放射線による健康被害は無い」と言明し、その線で原発事故の社会処理とオリンピック準備が図られています。全官庁あげて「風評払拭リスクコミュニケーション強化」を図っています。
 
 事実をありのままに見ないことは人権を無視するうえで常に先行される常套手段です。
 
 福島県民だけでなく、汚染が高かった地域の住民の皆さんに、自らの命を守るために、自らの人権を守るために、放射能被曝を避ける具体策を自治体、国に要求してほしいと思います。
 
 また、避難されている皆さんが、住宅手当が廃止されるのをきっかけに高汚染地域に帰らざるを得なくさせられていることに大変な危機感を抱きます。
 ここに汚染地内外で、人権を守る共通の要求を掲げ、共通の人権擁護を強く意識し行動されることを望みます。 

つなごう命の会 矢ヶア克馬
 

 
追伸
ご支援の訴え
アンケート報告集の出版は沖縄県に避難者支援の継続をして戴く上で大きな役割を果たしました。しかし残念ながら出版費は赤字です。
その出版費などを支えていただくために
皆様のご支援をいただければ幸甚です。
 
振替口座
口座記号番号:    01770-5-170377
口座名称:        つなごう命の会 (ツナゴウイノチノカイ)
加入者払込み払出店       那覇支店
 
郵貯以外の銀行からの振り込みの場合
店名(店番):一七九(イチナナキュウ)店(179)
預金種目:           当座
口座番号:           0170377
 
                    
3月の第28回定例ゆんたく学習会は
3月23日(土)15:30〜、
牧志駅前ほしぞら公民館。
テーマは:100ベクレル以下は安全?
―とんでもない誤りですー
 
来年度は 第2土曜日の15:30〜の予定です。
      


 

No.1253 (2019/02/05) 環境問題と人為的温暖化・再エネの虚妄E
古代文明の崩壊と環境破壊の本質/生態系におけるヒトの役割について

 前回まで、地球生態系を成立させている各種循環構造について見てきました。今回は、地球生態系の中におけるヒトの役割について考えることにします。

 ヒトは何故か獣(ケモノ)に含めないそうですが、生物種としては比較的大きな雑食の哺乳類です。生態系の中におけるヒトの本質的な役割は捕食者として植物や動物を食料として活動し、糞尿を排泄することです。
 文明以前では、群れを成して狩猟や採集を行いながら移動していたのではないかと考えられます。この時点では他の雑食性の獣と本質的に何の違いもなかったと考えられ、地球生態系の一部として機能していたものと考えられます。

 生態系に対するヒトの関わり方が大きく変化したのは、最終の氷河期が終わった1万年ほど前から現在まで続く温暖な間氷期(完新世)に入ってからです。
 環境が温暖化したことによって植物の生育環境が良くなり、定住したヒトによって食物となる植物の栽培=農業が開始されました。特に重要なのは、貯蔵の利く穀物栽培が開始されたことです。これによって食料の備蓄が可能となり、計画的な農業が可能となりました。
 この農業生産による食糧の増産によって人口が増加するとともに、食料備蓄による格差が発生し、やがて階級が発生しました。食料生産から解放された支配階級のもとに職能集団が発生し、文明が興ることになりました。

 完新世の最高温期あるいは気候最適期と呼ばれる8000年前ごろから4000年前ごろの時期に、温暖な環境に支えられた好調な食料生産を基盤とした古代文明が次々に起こりました。主な古代文明として、エジプト文明、メソポタミア文明、インダス文明、黄河文明を四大文明と呼んでいます。
 古代四大文明の跡地は現在、全て砂漠になっています。しかし、すでに述べたように文明が興るための必要条件は豊かな農業生産があることです。したがって、古代四大文明が興った当時は豊かな自然環境があったはずです。
 四大文明の後に起こった、ギリシャ文明、ローマ文明の遺跡は「白い街並みと青い海」が観光の売り物のようです。しかし、文明が興った3000年ほど前は緑豊かな自然環境が存在していたはずです。白い岩肌がむき出しになった禿山に囲まれた白い街並みとは豊かな自然環境を破壊しつくした成れの果てなのです。

 古代文明の跡地は、多くの場合、豊かな自然環境が失われた砂漠や岩山になっています。この砂漠化の直接的な原因は、@脱栄養、A乾燥、B塩害、C風食、D水食です(槌田敦著「新石油文明論」p.66)。しかし、この砂漠化が文明の跡地に見られるということは、何らかの形で人間の文明社会が自然環境や生態系に介入した結果であると考えられます。

 勿論、各文明の発生した場所の自然環境や植生によって、砂漠化に至る詳細な経緯は異なりますが、誤解を畏れずに大雑把に言えば、食糧増産のために行われた森林伐採・焼き畑による農地の開墾と収奪的な農業による農地の酷使によって土壌栄養分が失われ、あるいは風水食で土壌栄養が流亡し、農作物が育たなくなり、結果として地表環境が乾燥した結果、雨が降らなくなったことによって砂漠化したのです。

 すでに述べたように、陸上生態系では栄養分の一定部分は、重力によって必然的に流亡することになります。生態系の栄養循環で海洋や低地から内陸部への栄養の還流出来る以上の栄養分を土壌から収奪すれば、やがて農地は疲弊し農作物は取れなくなり、砂漠化が進行することになります。

 この古代文明の崩壊は、人間社会の生態系への関与の仕方を誤ると短期間で定常性を失い崩壊に向かうことを示しています。人間社会の活動によって、地球の生態系の定常性を保証している大気水循環、物質循環の定常性を破壊する行為が環境問題の本質なのです。これは現在でも全く変わっていません。
 近年、工業技術の進歩によって、人間社会が地球生態系から離床したと勘違いして、無謀な開発が行われるようになりました。しかし、ヒトは動物であることを辞めることは出来ず、工業生産の定常性とて地球の大気水循環、物質循環構造を破壊するものであれば定常性は失われ、早晩崩壊することになります。

 人間社会を維持していくために、地球生態系と人間社会の物質循環構造が大気水循環構造の中で定常性を失わないように折り合いをつけていくようにすることが、現在におけるヒトの役割なのです。


No.1237 (2018/10/17) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄@
No.1239 (2018/10/24) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄 番外編
No.1245 (2018/11/22) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄A
No.1249 (2019/01/11) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄B
No.1251 (2019/01/16) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄C
No.1252 (2019/01/20) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄D
No.1256 (2019/03/08) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄F


 

No.1252 (2019/01/20) 環境問題と人為的温暖化・再エネの虚妄D
地球生態系を育む大気水循環、物質循環、栄養循環について

 今回は、地球生態系の循環構造についてもう少し具体的に見ておくことにします。

 地球には重力があるため、すべての物質は安定密度成層に向かう傾向があります。つまり、重たいものほど下(地球の中心に近い方)に引き寄せられ、上に行くほど軽いものが積み重なる状態が安定な状態です。安定な状態とは変化の少ない状態と言い換えることもできます。安定な状態はエントロピー生成速度が極小に近くなる状態であり、生命活動はほとんど存在しない状態ということもできます。
 地球の生態系は大変豊かです。これは、重力に抗して物質を循環させ、安定状態を破る仕組みがあるからです。

 まず、大気循環について見ておきます。
 すでに前回見たように、地球の表面環境と大気中に大量の水があることによって、太陽光のエネルギーを受けて鉛直方向の大気循環が生じることを述べました。これが大気の安定密度成層構造を破る機構です。大気が対流している下層大気の範囲を対流圏と呼びます。鉛直方向の大気循環によって対流圏上層に運ばれた水蒸気を含む湿った大気は、断熱膨張によって冷却され水蒸気は露点に達すると凝結して雲を生じ、雨や雪となって地表面に降り注ぎます。
 地球は太陽を巡る公転面に垂直な方向に対して23°ほど傾いた地軸の周りに自転しています。高緯度側ほど太陽高度が低いので、気温の分布は赤道付近が高温で両極が低温になります。その結果、赤道付近の地表面、海面で加熱され、多くの水蒸気を含んだ大気は大気中を上昇し、対流圏上層で両極方向に吹き出します。地球が自転していなければ、南半球と北半球でそれぞれ赤道付近で上昇した大気が両極方向に進みながら次第に冷却されて下降気流になり、赤道方向に還流する大循環構造になるでしょう。
 しかし、地球が自転しているために赤道に並行した大気の流れが生じるので、大気の南北方向の循環は南半球、北半球でそれぞれ3つに分断されています。地表面付近で吹く赤道に並行する恒常的な大気の流れは赤道付近で吹く東風である貿易風(trade winds)、中緯度付近で吹く西風である偏西風(Westerlies)、高緯度地方で吹く東風である極偏東風(Polar easterlies)です。

 更に、大陸と海洋の配置、高山の影響などによって、地球大気の循環構造は鉛直方向だけではなく南北方向、東西方向の流れを含めて大変複雑な大循環構造になります。

 次に、地表面の水循環について見ておくことにします。
 陸に降った雨や雪の一部は表土に吸収・保水され、表土に吸収されなかった一部は重力によって低い方に流れ海に注ぎます。また、地表面や海面からは絶えず水が蒸発しており、水蒸気となった水は再び大気循環に戻ってゆきます。水の蒸発量は地球の表面積について平均すると、概ね1(m3/m2・年)にも達します。
 水の気化熱は15℃で588.7(cal/g)≒588.7(cal/cm3)=588.7×106(cal/m3)なので水の気化による地表面の冷却効果は次のように計算することができます。

588.7×106(cal/m3)×1(m3/m2・年)÷365(日/年)÷24(時間/日)÷3600(秒/時間)
=18.67(cal/秒・m2)
=18.67×4.187(J/cal)(cal/秒・m2)
=78.17(W/m2)

 海に注いだ水は静止しているわけではありません。自転している地球の表層に溜まっている海水もまた大きな循環構造を持っています。
 海水の循環構造を駆動する力は二つあります。
 一つは大気の海面付近を流れる風によるものです。これを風成循環と呼びます。風成循環は直接的には海面付近の海水の流れを駆動します。しかし、海面付近の海水の流れは海水位の差を生じさせ、海水の鉛直方向の流れ(湧昇流)をも引き起こします。風成循環による代表的な海流は赤道付近で貿易風によって生じる南・北赤道海流です。海面付近を流れる主な海流を下図に示します。

 もう一つは、海水の温度や塩分濃度による海水の密度の差によって駆動される鉛直方向の流れです。これを熱塩循環と呼びます。

 風成循環と熱塩循環は互いに影響しあい、世界の海洋を巡る大きな循環構造を作っています。

 以上が地球生態系の基盤となる大気水循環の概要です。次に物質循環と生態系の栄養循環について考えます。

 水は優れた溶媒であり、多くの水溶性の物質を溶かし込むことができます。また、陸上を流れる水は土壌や岩石を削り取りながら海に注ぎます。海に流れ込んだ水は海水中を循環しますが、海水よりも重い物質は海洋底に沈みます。

 生態系が定常的に長期間存続するためには資源を循環利用することが必要条件です。しかし、生物を含まない地球の自然環境では、陸上にある物質は水の流れに従って一方的に海洋に流れ込むことになります。これでは陸上では一方的に資源が減少して、安定した陸上生態系を長期間維持することはできないことになります。しかし、現実には陸上生態系は安定しています。それはなぜでしょうか?

  地球生態系の物質循環が長期間にわたって安定的に存続しているということは、生物の存在自体による海洋から陸上に向かう物質循環があるからということになります。生態系における独自の物質循環とは、食物連鎖による栄養循環です。

 陸上生態系では、独立栄養生物である植物は大気中から二酸化炭素、土壌から水分や窒素、リン、カリウムなどを取り入れ、光合成によって有機物を合成し成長します。草食動物は植物の体組織を食料として取り入れて生命を維持します。肉食動物は草食動物を食料として生命を維持します。食物として利用されなかった植物の体組織や死んだ動物の体組織、動物の排泄物などは昆虫や微生物による多段階の分解を経て、最終的には二酸化炭素と無機物に分解されて大気と土壌に戻ります。生命活動で生じた廃物はすべて再利用できる物質に分解され、廃熱=熱エントロピーは大気水循環で宇宙空間に廃棄されるため、廃物による汚染を残しません。
 しかし、土壌に含まれる有用な物質はすべてが循環利用されているわけではなく、一部は水に溶けだし重力によって低い方へ移動し、最終的に海洋に流れていくことになります。

 陸上の有用物質を溶かし込んだ河川水が流れ込む沿岸海域は、植物性プランクトンや海藻類を育て、これを食料とする魚類を中心とする海棲生物を育むことになります。海棲生物の排泄物や死骸は食物連鎖の多段階の分解を経て、微小生物の糞や死骸となって深海に沈むことになります。
 深海に沈んだ有用物質は湧昇流によって再び海洋の表層に供給されることになります。湧昇流の起こる海域では豊かな海洋生態系が生まれます。

 ここまで見てきた陸上生態系と海洋生態系の間の有用物質の移動は、大局的に見れば重力による安定密度成層に従う陸上から海洋への一方的な流れであり、これでは陸上生態系の定常性は維持できずに一定の遷移期間の後に消滅することになります。
 陸上生態系の定常性を保証しているのは海洋の有用物質を陸上に還流させる動物の移動です。動物の移動は有用物質の移動そのものです。
 例えば、海鵜などの海鳥の糞などの有機物が堆積して化石化したグアノです。グアノは有機肥料として利用されています。グアノに限らず、海と陸を行き来する鳥の糞や死骸によって海洋の有用物質が陸上に還流しています。その他にも海洋と陸をつなぐ動物として海獣類や遡河性の魚類による還流もあります。

 こうして海洋の有用物質を陸上に還流させる動物の移動によって、陸海を巡る物質循環が完結することで地球生態系の定常性が保証されているのです。動物は独立栄養生物の分解者であるだけでなく、移動能力によって有用資源の運搬者として重要な役割を担っているのです。


No.1237 (2018/10/17) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄@
No.1239 (2018/10/24) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄 番外編
No.1245 (2018/11/22) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄A
No.1249 (2019/01/11) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄B
No.1251 (2019/01/16) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄C
No.1253 (2019/02/05) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄E


 

No.1251 (2019/01/16) 環境問題と人為的温暖化・再エネの虚妄C
地球生態系の定常性あるいは持続可能性について

 前回、地球を熱力学的に見ると開放系であるということを述べましたが、もう少し詳しく見ておくことにします。

 地球を含む太陽系は誕生して既に46億年が経過していますが、主星の太陽の寿命は100億年程度と考えられており、現在は安定した時期にあります。地球が開放系であるといっても地球の周囲はほとんど真空の空間が広がっており、地球の外から大量の物質が供給されることはありません。また、地球の重力のため、地球から宇宙空間に大量の物質が放出されることもありません。
 この特徴は、特に地球に限ったことではなく、太陽系の他の地球型惑星も同様です。太陽系の地球型惑星(水星、金星、地球、火星)は、太陽放射で温められ、同時に赤外線放射で放熱することで安定しています。したがって、外形的に見ると太陽系のすべての地球型惑星は熱力学的には、開放系であると同時に、太陽放射から受け取るエネルギー量に見合うエネルギー量を赤外線放射で宇宙空間に放出する定常系です。

 地球を特徴づけているのは、地球の表面付近〜大気中に水が大量に存在し、水が、固体・液体・気体の三相で安定的に存在できることです。
 現在の地球の平均表面温度は15℃(288K)程度であり、水蒸気を含む対流圏大気の平均的な温度減率は6.5K/km程度です。また、地球大気の平均分子量は29程度であるのに対して水蒸気の分子量は18です。その結果、地表面付近で温められた大気は水蒸気を多く含むために軽くなり、地球重力に抗して大気中を上昇します。大気中を上昇する大気は断熱膨張によって冷却され、大気中の水蒸気は凝結し水となって取り除かれ雨となって地表に戻ります。大気は冷やされ重くなり下降気流となります。

 こうして、地球大気は水という物質の存在で循環運動をしています。大気は地表面付近で太陽光によって温められ、大気を動作物質として循環する一種の熱機関です。廃熱は大気上層からの低温赤外線放射で宇宙空間に廃棄され、その時同時に地球上の活動によって増加した熱エントロピーを宇宙空間に廃棄しています。つまり地球を一言で特徴づけるとすれば、「太陽系で唯一、大気水循環を含む定常開放系の惑星」ということになります。

 定常的なエネルギーや物質の流れには単純な流れ(第1種定常流)と、物質循環を含む流れ(第2種定常流)があります。


槌田敦著「熱学概論」p.103(朝倉書店、1992年)

 物質循環のない第1種定常流は「エントロピー生成速度極小の法則」に従っており、単純にエネルギーと物質自身が流れているだけで、何も生み出すことはできません。これは、太陽系の地球以外の地球型惑星であり、ほとんど熱力学平衡状態に近い死の世界です。
 これに対して物質循環を含む第2種定常流では、エネルギーの流れから有効な仕事を取り出すことができます。地球は、太陽光から得たエネルギーで駆動される「大気水循環」によって有効な仕事を取り出すことが出来ます。これが地球に生物を含む環境=生態系が発生し、そして長期間にわたって維持されている根本的な条件です。

 さらに水の物性も重要です。水は比熱や気化熱が大きいために、地表面付近の環境で生命活動を含む熱力学現象の結果に生じた熱エントロピーを効率的に吸収し大気上層に運び上げ宇宙空間に廃棄することができます。また、溶媒としてほとんどあらゆる物質を溶かすことができるため、地球上における物質循環の媒体として優れています。

 では、大気水循環を持つ地球の生態系について考えることにします。生態系とは、生物群とその存在を保証している無機的な環境の総体です。まず、生物について考えることにします。

 生物は、固有の体組織を持ち、環境から原料を取り入れ体内で生命活動を行い、その結果生じた廃熱や廃物を環境に捨て去ります。しかし、外から原料を取り入れ、何らかの活動を継続的に行い、廃物や廃熱を環境に捨て去ることは生物だけの特性ではありません。例えば内燃機関も外形的には生物と同じ特徴を備えています。系外から資源を取り入れ、系内で何らかの活動を持続的に行い、廃物・廃熱を系外に廃棄するような系を熱力学的には一般的に「定常開放系」と呼んでいます。
 熱力学的に見て定常開放系の一種である生物を特徴づけているのは、自ら主体的・積極的に環境に働きかけて資源を取り入れ、廃熱・廃物(=エントロピー)を系外に排出するとともに、活動を維持するために体組織を自ら修復し、あるいは修復不可能な事態に対処するために何らかの方法で次世代の個体を作り出す(増殖)ことで長期間にわたって定常性を維持する点です。

 地球上の生物には、環境から摂取した有機化合物を分解することで生命を維持する従属栄養型の生物と、環境から二酸化炭素を含む無機化合物を摂取して、太陽光を利用した光合成によって自ら有機化合物を合成する独立栄養型の生物に分類されます。従属栄養型の生物の代表は動物、菌類、細菌類の大部分がこれに含まれます。独立栄養型の生物の代表は植物です。

 例えば、生態系が分解者である従属栄養型の生物だけであれば、過去に地球環境に蓄積された有機物を分解しつくす=原料資源の枯渇で終焉を迎えることになります。また、多くの従属栄養型の生物は有機物を酸素を使ってエネルギーを取り出すため、酸素の枯渇で終焉を迎えます。あるいは生命活動の結果として生じた二酸化炭素を含む廃物による環境の劣化が原因となって終焉を迎えることになるかもしれません。
 廃熱については地球の大気水循環で対流圏上層からの低温赤外線放射で宇宙空間に廃棄することができますが、廃物については地球重力に捕われているため、宇宙空間に廃棄することができず、地表面環境に汚染として蓄積することになります。
 こうして、仮に地球の生態系が分解者である従属栄養型の生物ばかりであれば有限の期間で終焉を迎えることになります。

  では、地球の生態系が独立栄養生物だけであればどうでしょうか?光合成をおこなう植物は、環境から二酸化炭素や水、無機化合物を取り入れ、光合成をおこない自ら有機化合物を合成し、環境中に廃熱と廃物としての酸素を放出します。光合成の材料である二酸化炭素は環境からいくらでも取り入れることができると思われている方も多いのではないかと思いますが、実際には二酸化炭素は大気中に400ppmほどしか含まれておらず、現在の地球の植生であればわずか6年程度で枯渇することになり、植物は育つことができなくなります。

※上図に示すIPCC2007年報告書の炭素循環図によると、大気中に含まれている二酸化炭素の炭素重量は762Gt (Atmosphere)であり、植物が1年間に消費する二酸化炭素の炭素重量は120Gt/yr (GPP)とされています。したがって、762÷120=6.35年で枯渇することになります。

 つまり、従属栄養生物あるいは独立栄養生物の片方だけで構成された生態系であれば、有限の遷移時間の後にすべての活動が止まることになります。

 地球の生態系が独立栄養生物と従属栄養生物で構成されている結果、植物などの独立栄養生物の放出する酸素や有機化合物である体組織が動物を頂点とする従属栄養生物にとっての有用資源となります。従属栄養生物による有機化合物の多段階の分解によって、最終的に二酸化炭素や無機物質に分解され、再び植物などの光合成生物の資源に戻ります。この過程で生じた廃熱=熱エントロピーは大気水循環によって宇宙空間に廃棄されます。

 このように、独立栄養生物と従属栄養生物で構成された生態系の生命活動によって、物質は循環利用され、廃熱は地球の大気水循環によって宇宙空間に低温赤外線放射として廃棄されます。これによって地球環境の物質エントロピーは蓄積されて増加することはなく、不断に増加する熱エントロピーは宇宙空間に廃棄されるので、生態系を含む地球の生態系のエントロピーは低い水準で維持され、定常性が維持されているのです。


No.1237 (2018/10/17) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄@
No.1239 (2018/10/24) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄 番外編
No.1245 (2018/11/22) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄A
No.1249 (2019/01/11) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄B
No.1252 (2019/01/20) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄D


 

No.1250 (2019/01/11) 2019年寒中お見舞い申し上げます
戦後日本の目指した平等・平和国家の実験的な試みの崩壊

 今年、30年間続いた平成という時代が終わります。そのようなわけで、この時代を総括する内容の寒中見舞いを書きました。今後一体どのようにこの世界が変わっていくのか、決して安穏な時代が続くはずもなく、暗澹たる気持ちになる現在です。

 

 

No.1249 (2019/01/11) 環境問題と人為的温暖化・再エネの虚妄B
熱力学系の分類と持続可能性について

 前回述べたように、環境問題を考えることの意味とは、自然環境の変化を乗り越えて、人間社会をいかに存続させていくのかという生存戦略を明らかにすることです。

 ここで一言断っておきますが、当ホームページのスタンスは、環境保護という類型で「博愛主義的・情緒的に地球の生物・環境を守りましょう」というものとは根本的に異なるものです。もっと切実かつ実利的に「人間という種によって構成される人間社会をいかに安定的に存続させることができるのか」について、自然科学的に冷徹に考えることです。
 この視点から考えれば、極論すれば、人間以外の種が全て絶滅しても人間社会が安定的に存続することが可能であれば、それを否定するものではありません。しかし、現実にはそのようなことは不可能であり、人間社会が安定的に存続するためには、人間を含む地球の生態系を多様性に富んだ豊かな状態で維持していくことが必要条件であり、その意味において人間以外の生態系の豊かさを守るということです。似ているようですが、この主客の逆転は決定的に重要です。

 例えば、捕鯨について考えてみます。西欧のキリスト教的博愛主義の環境団体やそれに影響されている日本の環境保護運動の一部には、知能レベルの高い大型哺乳類である鯨類を狩猟・食肉の対象とすることを理由に捕鯨に反対しています。これは極めて主観的で非科学的な環境保護思想の特徴が端的に表れている例です。
 高い知能を持とうが大型獣であろうが、基本的に人間以外のすべての生物は食料の対象となりうるものです。問題は、人間社会の長期的な存続のために捕鯨を行うことが致命的な悪影響になるかどうかという視点で判断すべき問題です。勿論、鯨という有益な資源が短期間で枯渇するような乱獲は避けなければなりません。鯨資源を利用しながら、同時に安定的に更新していくこと、そして鯨を含めた海洋生態系に対して悪影響を与えないことを判断の基準にすべき問題です。
 日本の主張する鯨資源が回復しているという主張の真偽を確かめる術を私は持っていませんが、仮にその主張が正しいのであれば、感情的に批判をする西欧諸国・反捕鯨団体よりもはるかに日本の主張の方が自然科学的に合理的な主張であり、この主張を支持するものです。

 少し前置きが長くなりました。では初めに、人間社会を含む地球環境の持続可能性について考えることにします。ただし、惑星としての地球は長期的には有限の時間で寿命が尽きることになりますが、ここでは取り敢えず数10万年程度の短い時間スケールの未来における持続可能性に限定しておくことにします。

 私たちを取り巻く宇宙の中で起こっている森羅万象は、大きく分けて4つの階層に分けることができます。
 一つ目は物質の最小単位と考えられている素粒子レベルの階層です。
 二つ目は素粒子の集合体としての原子や分子レベルの階層です。
 三つ目は原子や分子の集合体としての物質レベルの階層です。
 そして四つ目は、恒星系や宇宙レベルの階層です。

 素粒子レベルの階層や恒星系や宇宙レベルの階層については、いまだにわからないことが多い分野です。しかし、幸い(?)、私たちが暮らしている普通の世界は主に三つ目の物質レベルの階層に含まれ、一部に二つ目の原子・分子レベルの階層の影響もうけています。素粒子や宇宙の階層の原理法則がわからなくても私たちの生活にはかかわりのないことです。

 私たちの住む物質世界の現象は熱力学によって特徴づけられます。この物質世界を律しているのは、質量・エネルギーの保存則とエントロピーの増大則です。

 エントロピーとは少しわかりにくい物理量です。エントロピーの本来の定義は、系の持つ熱エネルギー量Qをその温度Tで割った値Q/T=S(cal/K)として示される状態量です。
 例えば同じ熱量Qを持つ二つの系があったとします。それぞれの温度をT1、T2だとします。系の温度の間にはT1>T2の関係があるとします。この時それぞれの系のエントロピーを計算すると、

S1=Q/T1<Q/T2=S2

の関係があります。つまり、エントロピーは熱エネルギーの凝集の程度を現していると考えられます。エントロピーの小さい系はエネルギーがより狭い範囲に密に凝集している状態であり、高温です。エントロピー増大則とは、系外から熱エネルギーを供給しなければ、系の持つ熱エネルギーは拡散する方向にしか変化しないのです。
 例えば熱いお湯を放置すれば必ず冷めてしまいます。これはお湯の持っていた熱エネルギーが周囲に拡散して密度が低くなった、つまりエントロピーが増加する方に現象が進んだことを示しています。エントロピーとは熱の拡散の程度を示す物理量ということができます。
 物質の温度状態は、統計力学的に見ると物質を構成している分子・原子の運動状態に密接に関連しています。統計力学と熱力学の整合性から、より一般化して、エントロピーとは「エネルギーと物質の拡散の程度を示す物理量」と定義されています。

 私たちの住む第三の階層の物質世界を律する法則として、特に注目すべきなのがエントロピーの増大則です。物質世界の現象はエントロピーを増大させる方向にしか進みません。つまり、すべての現象は非可逆的なのです。一方、原子・分子レベルの現象は可逆的であり、エントロピー増大則は当てはまりません。以下、特に断らない限り私たちの暮らす物質世界について考えることにします。

 熱力学的に見て、内部に物理的な変化を内包する系について考えることにします。まず大きく分けると孤立系、閉鎖系、開放系の3種類に分類されます。

 孤立系とは、系外とエネルギー、物質の両方の出入りが全くない系です。
 閉鎖系とは、系外とエネルギーの出入りはあるものの、物質の出入りが全くない系です。
 開放系とは、系外とエネルギー、物質の両方の出入りがある系です。

 孤立系は、その内部に多くの資源、エネルギーを有していたとしても、エントロピー増大の法則から免れることができず、有限の時間ですべての活動が停止してしまいます。エントロピーが有限の最大値に達した状態を「熱的な死」と呼ぶことがあります。
 閉鎖系は、系外からエネルギーを取り入れたり、系内の活動の結果増大したエントロピーを廃熱と一緒に系外に捨て去ることができます。したがって、系内にある資源を循環的に利用できる機構が存在する場合には持続可能な系になる可能性があります。
 開放系は、系外からエネルギーや物質を取り入れ、系内の活動で増加したエントロピーを廃熱や廃物とともに系外に捨て去ることができます。したがって、閉鎖系よりもさらに持続可能な系になる可能性が高いと考えられます。

 また、熱学的な現象が時間に対して変化する場合を非定常な状態、変化しない場合を定常状態と呼びます。
 定常状態に似た状態として平衡状態があります。両者の違いは、定常状態は何らかの熱力学的な現象が継続していているが、その時間に対する変化がない状態です。一方、平衡状態とは熱力学的な現象が起きていない状態を指します。あるいは、定常状態とはエントロピーを増加させる安定状態であり、平衡状態とはエントロピーが変化しない安定状態と言い換えることができます。

 では、私たちの住んでいる地球という惑星は熱力学的にはどのように特徴づけられるでしょうか?

 地球はほとんど真空の宇宙空間にあります。地球は太陽系の主星である太陽から太陽放射によってエネルギーを受け取っています。また、少量ではありますが素粒子や隕石などによって物質も流入しています。また、地球は温度状態に応じた赤外線を放射することによってエネルギーを宇宙空間に放出しています。また少量ですが、物質を宇宙空間に放出しています。したがって、地球は熱力学的に見て開放系です。

 次回は、生態系を含む開放系の地球の活動の特徴、その持続可能性についてもう少し詳しく考えることにします。


No.1237 (2018/10/17) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄@
No.1239 (2018/10/24) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄 番外編
No.1245 (2018/11/22) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄A
No.1251 (2019/01/16) 環境問題と人為的温暖化説・再エネの虚妄C


 

No.1248 (2019/01/01) 社会格差を拡大し、平和国家を放棄した平成
消費税を引き上げ、対米経済政策として軍備を拡張する異常な社会

 このところ、年が明けるたびにこの国が悪い方向へ変質していくのを目の当たりにしています。森友・加計問題で安倍政権が崩壊するのではないかという、『明るい話題』が出て期待したものの、大山鳴動して鼠一匹も捕まえることができずに、いつしか怒りの炎は消し去られ、気がついてみればますます官邸の官僚に対する締め付けが強まり、国会はセレモニーとなり形骸化してしまいました。半ば安部独裁的な国会運営に対して、マスメディアもまともに批判することはせず、大衆も沈黙するという絶望的な状況が続いています。果たして今の国会に存在意義があるのか…。

 さて、平成という時代が終わろうとしていますが、この時代は第二次世界大戦後の日本の良い側面が切り崩された時代だったと考えます。
 消費税の増加、法人税・所得税の引き下げ、派遣労働の普遍化と固定化、資本や企業にとって都合の良い社会を目指すことが国家目標となり、「貧乏人は大企業のぼろ儲けのおこぼれで糊口をしのげ」というのが国家の方針となり、大衆にこれに対抗する意思も気概もなく、スマホの仮想世界に埋没して、おまけに情報産業のカモにされている有様です。

 来年度の予算の骨格が見えてきましたが、消費税10%への引き上げに対する経済的な落ち込みを回避するためと、対策予算として数兆円規模の国庫からの支出増加は、消費税引き上げの実質税収の増加を上回るという支離滅裂なものです。この対策予算とは、国民大衆を騙すためのポピュリズム的な装いを見せていますが、実は企業収益の落ち込みを救済するためのものです。


 さらに、米国トランプの理不尽な経済圧力を懐柔するためといって、国際情勢の変化を無視してイージス・アショアの導入、加えて、かつて予想した通り護衛艦という名目であったはずの「いずも」級の護衛艦を空母に改装してF35ステルス戦闘機を大量導入するという平和憲法を持つ国とは考えられない暴挙が行われようとしています。

 その結果、予算規模は100兆円を超え、平成時代の国家債務は膨らむばかりであり、安倍政権下の好景気は税金のばらまきによる、将来の世代の受けるべき恩恵を前借しているだけの目先だけのごまかしであることは明白です。

 結局平成時代とは、格差社会を助長して固定化し、平和国家日本を破壊した時代であったということです。誠に腹立たしい限りです。

 確かに現在の安部独裁政権の横暴ぶり、愚かさには腹が立ちますが、突き詰めればこのような政府を選出し、その行動を容認している国民自身の無関心、無能ぶりの反映であることも否定しがたい事実です。さて、この無能な国民に対してどのような啓蒙の方法があるのか…。

 今年は、些細なことかもしれませんが、権力の横暴の一つである「人為的CO2地球温暖化脅威説」という虚構で行われている国民からの収奪に対して、反旗を掲げることをささやかな目標にしようと考えています。よろしくお付き合いください。


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