第一裁判:第一論文掲載拒否・講演拒否事件に関する訴訟

 既に2009年5月27日の新聞などで報道されたとおり、槌田敦氏は日本気象学会における人為的CO2地球温暖化仮説についての論争をめぐって、同学会より不当に同学会員の権利である主張の機会を奪われたとして27日に東京地方裁判所に損害賠償をもとめて提訴した。

 問題の一つである気象学会への投稿論文「大気中のCO2濃度増は自然現象であったT」については私自身が共著者として名を連ねているため、気象学会員ではないが事実上当事者の一人である。そこで、この訴訟について当事者として多少説明を加えておくことにする。

1)訴訟の目的

 もちろん、この訴訟の目的は人為的CO2地球温暖化仮説に対する槌田・近藤の主張の科学的な妥当性を争うものではない。しかしながら、今回の日本気象学会の異常な対応の背景には人為的CO2地球温暖化仮説に対する槌田・近藤の主張が大きく関係しているため、この点も含めて事実経過を述べることにする。

 槌田による人為的CO2地球温暖化仮説についての考察は、当初、環境経済・政策学会において開始された(CO2温暖化脅威説は世紀の暴論 槌田敦[和文年報 第4集『地球温暖化への挑戦』東洋経済])。この中で槌田は長年南極とハワイで大気中CO2濃度の観測を行っているC.D.Keelingの報告を紹介した気象学者根本順吉氏の著書を引用して大気中のCO2濃度の変動は気温変動が原因であり、人為的CO2地球温暖化仮説には無理があることを述べた(1998年)。近藤は、当HPにおいて「二酸化炭素地球温暖化脅威説批判」(2003年)を公開した。

 これに対して東北大学の明日香壽川は、人為的CO2地球温暖化仮説を擁護する立場から「温暖化問題懐疑論へのコメント 明日香壽川・吉村純(気象研究所)[2005年度環境経済・政策学会発表資料修正加筆版 Ver.1.12005年10月20日]」をネット上に公開し、Keelingのグラフ解釈について槌田・近藤の主張は誤りであると断じた。環境経済・政策学会における論争は2006/02/18 環境経済・政策学会「地球温暖化に関する討論会」に引継がれるが、結論には至らなかった。

 その後、人為的CO2地球温暖化仮説をめぐる論争は日本気象学会の場に移った。蛇足であるが、この過程で気象研究所の吉村純から「気象学会は開かれた場なので、気象学会において議論しましょう」と言う趣旨の私信メールを受け取った(しかし、この吉村の主張は全く事実に反していたようである)。

 根本氏によって日本に紹介されたKeelingのグラフに対して、気象学会の公式な見解と思われるものが気象学会誌「天気」2005年6月号『質疑応答』、河宮未知生(海洋研究開発機構)に発表された。
 近藤は、Keelingの問題のグラフを検討するためにKeelingのCO2観測データと気象庁の気温データ、海面水温データを分析することにより、当HPに「大気中二酸化炭素濃度と海面水温・気温の関係 近藤邦明(2006年2月21日)」を公開した。これを機に、槌田とともに大気温度と大気中CO2濃度の関係について一連の報告を行うことになる。
 気象学会で最初に問題となった槌田の論文は天気投稿論文「反論・CO2濃度と気温の因果関係、槌田敦(高千穂大学)、2006年9月6日受付」である。これは気象学会誌「天気」に掲載されたKeelingのグラフについての河宮未知夫の報告に反論する内容であった。この論文は度重なる査読に対応したものの掲載を拒否された。その後、槌田は気象学会誌への論文掲載と気象学会の学術講演会で講演する権利を得るために、気象学会の会員となり、気象学会の学術講演会で数度にわたって報告をおこなった。
 そして今回の問題となった槌田・近藤の共著の論文の原型となったのが当HP所収の「CO2濃度の増加は自然現象 槌田敦/近藤邦明(気象学会誌「天気」投稿論文2008/04/25)」である。このレポートに関しても数回の査読を受け、査読意見に従い問題のない事実関係のみに限定した「大気中のCO2濃度増は自然現象であったT」を最終的にまとめたのである。

 査読意見に従ったにもかかわらず、査読段階では問題とならなかった理由により2009年2月に気象学会は論文の掲載を拒否した。更に、2009年5月28日の気象学会の学術講演会に対する槌田の参加・講演を拒否すると言う、およそ科学を標榜する学会では考えられないような対応を行った。
 今回の訴訟は、気象学会員である槌田の学会員の権利である論文発表の機会が合理的な説明のないまま掲載拒否されたこと、同じく学術講演会に参加し講演を行う権利が奪われたことを争うものである。

2)人為的CO2地球温暖化仮説をめぐる論争の争点

 ここで、標準的な人為的CO2地球温暖化仮説と、槌田・近藤そして沖縄高専の中本正一朗教授の主張の争点を簡単に説明しておく。中本氏は、環境経済・政策学会における温暖化をめぐる討論会以降、ご協力いただいている。

 標準的な人為的CO2地球温暖化仮説によるKeelingのグラフ解釈は次の通りである。

@大気中のCO2濃度の変化、特に産業革命以降の「長期的」上昇傾向は、人為的に付加された化石燃料の燃焼等によると解釈する(人為的CO2蓄積仮説)。Keeling曲線は、大気中のCO2濃度の変動から「長期傾向」=人為的影響を取り除いた「自然変動」を示す。長期傾向とこれを取り除いた短期変動は変動の機構そのものが別なのだから、分離して論ずべきである。
AKeelingのグラフにおいて、気温変動の後に大気中のCO2濃度が変動しているのはあくまでも「自然現象」であり、人為的CO2地球温暖化とは無関係である。自然変動においては気温が原因となってCO2濃度が結果として変動しても全く構わない。
B気温の長期的な上昇傾向は、人為的に排出されたCO2が大気中に蓄積したことによる温室効果の増加が原因となって、結果として気温が上昇する。

 これに対して、槌田・近藤・中本は次のように主張する。

@大気中に放出されたCO2は、その放出源を問わず地球大気の乱流拡散・分子拡散によって速やかにかき混ぜられ均質になる。その上で地球大気は地表面との間で、年間地球大気に含まれるCO2の30%程度を交換している(槌田による循環モデルないしは級数モデル)。したがって、人為的に排出されたCO2だけが選択的に大気中にとどまり続けることはない。それ故、人為的なCO2と自然起源のCO2を分離して取り扱うことは不合理である。この点について、槌田は長期的な傾向は短期的な変動の積分的な効果であるという表現をした。
 この問題について、中本は、気象要素は一次の自己回帰過程=マルコフ過程に従うことが知られていることから、気温変動に関して、長期的な傾向を取り除いた時間平均がゼロになる定常確率過程からの出力と見なせる信号を取り出して、これをマルコフ過程に入力することによって長期の変動傾向が現れることを示した。つまり、気温の長期的な傾向とは短期的な変動によって生み出されていることを示したのである(「地球大気の平均気温上昇は数年スケールの擾乱と独立ではない 中本正一朗(2009年3月)」)。
A槌田・近藤はKeelingの分析で取り除かれていた「長期傾向」を含んだままのデータの解析を行い、まず、気温変動の時間微分とCO2濃度の時間微分を比較し、長期傾向を含んだままでも気温変動が原因となってCO2濃度が変動することを示した。更に、気温変動に対してCO2濃度変動が遅れる理由について検討した結果、気温の変動がCO2濃度の時間変化率を変化させていることを明らかにした。その結果、近年の大気中CO2濃度が一方的な上昇傾向を示す原因は、大気中CO2濃度が定常状態になる気温よりも0.6℃程度高いためであると結論した。

 詳細については当HP所収の各レポートを参照いただきたい。

HP管理者 近藤邦明

東京地方裁判所一審裁判の経過

年.月.日 原告資料 被告資料
2009.05.27 訴状
陳述書
 
2009.07.05   答弁書
2009.07.09 第一回口頭弁論
2009.07.09 原告準備書面(1)  
2009.07.21 陳述書2  
2009.09.02 準備書面2  
2009.09.03 第二回口頭弁論
第1回、第2回 口頭弁論の報告
2009.09.03   被告準備書面1
2009.10.11 原告陳述書(3)  
2009.10.13 原告準備書面(3)  
2009.10.15 第三回口頭弁論
第3回 口頭弁論の報告
2009.10.15   被告準備書面2
2009.10.16 原告準備書面(4)  
2009.11.09 意見書 植村振作  
2009.11.17 陳述書(3)
原告準備書面(3)
原告準備書面(4)
 
2009.11.19 第四回口頭弁論
第4回 口頭弁論の報告
2009.12.17 第五回口頭弁論
2010.01.21 第六回口頭弁論
第6回 口頭弁論の報告
2010.03.18 判決

論文の掲載拒否は学会誌編集部の編集権の濫用
HP「ちきゅう座」より『槌田敦論文と武谷三段階論法』

参考資料:
気象学会定款
気象学会細則


東京高等裁判所控訴審・最高裁上告審の経過

一審判決における原告から見た唯一の論点は、日本気象学会の学会誌編集委員会が槌田・近藤論文に対して『数年規模のデータから引き出せる因果関係を、長期的な規模のデータの因果関係と同じであるとするが、それには説得力ある論拠が示されていない』という誤認に基づいて掲載拒否したことは、編集権の濫用であり、不当だという主張でした。
 原告の主張に対して、被告日本気象学会は、「誤読したか否かについて問題にするまでもない」とし、一切具体的な回答を拒否したのです。これは、民事訴訟法第159条に従えば、被告が原告の主張した内容を自白したとみなされるべきものでした。


註)(自白の擬制)
第百五十九条  当事者が口頭弁論において相手方の主張した事実を争うことを明らかにしない場合には、その事実を自白したものとみなす。ただし、弁論の全趣旨により、その事実を争ったものと認めるべきときは、この限りでない。
2  相手方の主張した事実を知らない旨の陳述をした者は、その事実を争ったものと推定する。
3  第一項の規定は、当事者が口頭弁論の期日に出頭しない場合について準用する。ただし、その当事者が公示送達による呼出しを受けたものであるときは、この限りでない。


 つまり、被告日本気象学会は、原告論文に対する「誤読」を認めたのであり、被告の論文掲載拒否理由は根拠を失ったのですから原告勝訴は確定的でした。
 ところが、東京地裁の一審判決文は原告の主張する編集委員会の誤読については一切判断せず、編集委員会には高度の専門性を有する広範な裁量が認められており、それは査読制度によって担保されるとし、『投稿者からみて科学的には異論が十分にあり得たとしても、拒否行為が相応の科学的根拠に基づく以上、不法行為は成立しない』として編集委員会の掲載拒否を支持しました。
 この判決は、
@投稿者と編集委員会双方の主張に相応の科学的根拠があることを認めているにもかかわらず、
A編集委員会の主張をもって、投稿者の異論を排除した
のです。これは、裁判所が日本気象学会の科学論争に介入し、編集委員会の見解を支持し、投稿者の異論を排除したことを意味しており、これは司法判断の範囲を逸脱しており決してしてはならない判断だと考えます。

 控訴審の論点は、一審判決において裁判所の認定した広範な裁量範囲が、日本気象学会規約あるいは諸規定に照らして不当なものであることを論証し、一審判決を全面的に破棄することです。詳細については控訴人準備書面(1)をご参照ください。

年.月.日 原告資料 被告資料
2010.03.26 控訴状  
2010.06.11 控訴人準備書面(1) 答弁書
2010.06.21 控訴人上申書  
2010.08.04 控訴人準備書面(2)
陳述書(6)
 
2010.08.25 控訴審判決文
2010.10.28 上告理由書
上告受理申立理由書
 
2010.11.22 上告理由補充書  
2010.12.24 最高裁判所調書
 

参考資料:
日本気象学会査読指針
The temperature rise has caused the CO2 Increase,
not the other way around・・・・・・Lon Hocker

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