基本エネルギーとサブシステム

1. 基本エネルギーの必要十分条件

前回、工業文明を支えることの出来る基本エネルギーの必要条件を示しました。エネルギー産出比>1.0は必要条件であって、十分条件ではありません。工業文明を支える基本エネルギー(資源)の必要十分条件を以下にまとめておきます。

  1. エネルギー産出比>1.0
  2. ある程度の広がりを持つ地域に対して、文明が成熟するのに十分な期間、継続して供給出来るほど十分な量がある。
  3. 扱いやすく、リスクが小さい。

この3条件を満たすエネルギー(資源)として、現在の社会は石油を基本エネルギーとして工業文明のあらゆる局面で利用しています。条件1、2を満足するエネルギー(資源)は石油以外にも、固体の石炭や気体の炭化水素系のガスがありますが、扱いやすさにおいて液体である石油が最も優れているから石油が基本エネルギー資源として利用されているのです。石炭を採掘するためにも、天然ガスを採掘するためにも石油燃料が使われています。その意味で、石炭や天然ガスは石油の二次製品とも言えます。

それならば、石炭や天然ガスの利用など不要ではないか、という意見もあるでしょう。なぜ石油文明の下で石炭や天然ガスが利用されるのでしょうか?その理由は以下の通りです。

  1. 製鉄業における還元剤としての石炭乾留コークスの様に、代替の難しい資源特有の優れた能力がある。
  2. 石油は有限の資源である。
  3. 石油をそのまま使用する場合と、石油を使って石炭や天然ガスを生産して利用した場合を比較した時、総合的な効果(供給エネルギー量や経済コスト)として後者のほうが優れている場合。

石油文明を延命するためには、最も使用価値の高い石油はできるだけ節約して温存することが望ましいので、同じ効果が得られ、しかも石油を節約できるならば石油以外のエネルギー資源に代替することが望ましいのです。例えば、石炭は移動用動力としては適用の限界がありますが、定置式の熱源として用いるならば、石油と遜色はありません。そこで少量の石油燃料を石炭採掘に投入して大量の石炭を掘り出し、これを火力発電所の熱源として用いれば、石油を直接火力発電所の熱源として用いるよりもはるかに大量の電力が供給できます。ここで重要なのは、カロリベースで見た石炭の確認埋蔵量が石油よりもはるかに多いことです。

現状では石炭や炭化水素系のガスによるエネルギー供給システムは石油によるメインシステムに対して、これを補完するサブシステムです。しかし、石炭や炭化水素系のガスは、石油には劣っているといっても基本エネルギーとしての必要十分条件を満足していますから、石油が枯渇すれば第二次石炭文明、あるいは炭化水素ガス文明という工業文明が可能でしょう。最も可能性が高いのは第二次石炭文明であろうと考えられます。

2. 石油文明下のエネルギー供給サブシステム、特に発電

基本エネルギーとして石油を利用している今日の石油文明下では様々なエネルギー供給のサブシステムが存在しています。現在の高度な石油文明を特徴付けているのが、最終エネルギー消費における電力量の割合の上昇です。これは、現在の高度な石油文明では、情報通信網を構成する電子機器の普及と、微細で清浄な使用環境を必要とする機器の普及によって、その駆動のため電気エネルギーへの需要が大きくなっているからです。

ここで少し言葉の整理をしておきます。電気≒電荷と考えてよいでしょう。マイナスの電荷を持つ電子の流れが電流(単位:A、アンペア)です。電流が単位時間にする仕事=仕事率が電力(単位:W=J/秒、ワット)であり、ある時間内の電力による仕事の合計が電力量(単位:Wh=3600J、ワットアワー)です。

電力の製造過程が発電です。発電とは、何らかの形で得た運動エネルギーによって発電機を回すことで、運動エネルギーを電気的なエネルギーに変換することです。運動エネルギーを得る手段によって様々な発電方式があります。水の位置エネルギーあるいは運動エネルギーを利用する水力発電、何らかの高温熱源を利用して蒸気タービンで回転運動を作り出す汽力発電等があります。汽力発電は、熱源の種類によって石炭火力発電、石油火力発電、LNG火力発電、そして原子力発電も汽力発電の類型に含まれます。

水力発電と汽力発電は大きな質的な違いがあります。水力発電では、水の位置エネルギーあるいは運動エネルギーの内、発電機の摩擦によって失われる以外の大部分が電気エネルギーに変換できます。

これに対して、汽力発電では熱源から得た熱が動作物質である水(水蒸気)に引き渡され、水蒸気の熱運動を蒸気タービンを回すエネルギーとして使います。気体の持つ熱エネルギーから運動エネルギーへの変換では、大量の熱エネルギーが環境中に散逸します。蒸気タービンのような熱機関における投入熱エネルギーの内、有効に運動エネルギーに変換できる割合を表す指標が熱効率ηです。理想的な熱機関(カルノー・サイクル)の熱効率は次の式で表すことが出来ます。

η=(Th-Tl)/Th ここに、Th:高温熱源の温度(K),Tl:低温熱源の温度(K)

低温熱源の温度は環境の温度で定まるため、高温熱源の温度が高いほど熱機関の効率は高くなります。

現在の火力発電では高温熱源の温度は600℃(873K)程度、原子力発電では300℃(573K)程度です。低温熱源の温度を100℃(373K)と仮定すると、火力発電の理想的な熱効率は0.57、原子力発電では0.35程度になります。実際の火力発電の効率は0.4程度、原子力発電は0.3程度だと言われています。つまり、汽力発電では、投入した熱エネルギーの内、発電過程でその60~70%が廃熱となって環境に拡散していくのです。

汽力発電という工業生産プロセスを単体で見れば、運動エネルギー→電気エネルギーの変換効率を1.0だとしても、必ず

エネルギー産出比=(発電電力量)/(投入エネルギー量)<1.0

です。火力発電ではエネルギー産出比<0.4、原子力発電ではエネルギー産出比<0.3です。例として石油火力発電の電力生産図を示します。

石油火力発電

図の場合、石油火力発電に投入される石油の量は、高温熱源を作り出すためのボイラー燃料として0.88、発電所の建設・運転・補修に投入される石油燃料の償却分が0.12、合計で1.0です。この発電過程によって生産される電力量が0.35です。この時、発電の熱効率は0.35/0.88≒0.4、エネルギー産出比=0.35/(0.88+0.12)=0.35です。

 

電気エネルギーは、送電線によってどこにでも運ぶことが出来、送電線の末端に接続する器具によって熱、光、動力など様々な用途に利用することが出来ます。特に電子機器の駆動には不可欠なエネルギーです。

しかし、発電過程で見てきたように、発電過程で投入したエネルギー量の半分以上が環境中に散逸してしまうことになります。つまり、発電という工業生産過程は、有効に利用できるエネルギー量を犠牲にして、電気エネルギーという利便性の高い二次的なエネルギーに変換する過程なのです。電気が便利だからといって、電気以外のエネルギー(資源)で実現可能な機能を得るために徒に電気器具で代替することは、人間社会全体のエネルギー資源の利用効率を悪化させる愚かな行為だということを理解しなくてはなりません。

現在の石油文明では、石油燃料というエネルギー産出比=10程度という極めて優秀な基本エネルギー資源があるために、一部をエネルギー損失の大きな発電過程に投入しても、石油エネルギーによるエネルギー供給システム全体としてエネルギー産出比>1.0であり、工業文明を維持することが出来るのです。

現在、日本の電力化率(一次エネルギーの内で発電に投入される割合)は40%程度です。発電過程のエネルギー産出比の平均を0.35だと仮定します。日本における石油燃料などの一次エネルギーのエネルギー産出比=10.0とした場合、消費端におけるエネルギー産出比=10.0×(1.0-0.4)+10.0×0.4×0.35=7.4に減少します。一次エネルギーの40%を発電に投入することによって、有効に利用できる一次エネルギーの内26%が廃熱となって無為に環境中に拡散しているのです。

一次エネルギーをそのまま熱源のエネルギーとして使用すれば、90%以上の効率で利用できます。電気温水器などの低温熱源として電力を使うことは正に資源の浪費としか言えない愚行です。オール電化マンション、スマートシティーなど、実に近視眼的で愚かなエネルギー政策です。

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基本エネルギーとサブシステム への2件のフィードバック

  1. chntoo のコメント:

    解りやすい説明、ありがとうございます。
    エネルギーを考えるには先ず人類の歴史を確認しないと解らない、私たちは、最悪な未来への道筋を軌道修正する為に過去に学ぶことが必要なんですね。
    その上で現実の社会で自分がどう生きるか、生活をしていくか、判断し反映していくのだなと思いました。

    自分は建築に携わってきました、先日、縄文式の家の話やオンドルについて話をしていました。
    地熱を逃がさず、基本的な室内の温度を維持し、補助的に火や風などて住環境を調整する智恵に感心しています。

    工業製品に埋め尽くされた現代社会に生きていると、大多数の人が、それが無い世界など考える余地など無いと考え、経済を操っているピラミッドの上に居ると思っている人々にますます強迫観念を植え付けられています。

    一般市民は電気に依存しなければ他に方法がないような思考にさせられ、エネルギー産出比が低い石油の二次エネルギーだということを考え無いように誘導されている気がしました。

    エネルギー問題は基本的な物理を知らないで考える事は出来ないのですね。
    大変勉強になります。

    引用された槌田さんのレポート読みました。
    過去を忘れ何度も同じ過ちを繰り返す人間の浅はかさと、取り返しのつかない道を走っていることがよく解ります。
    注記されている本なども読んだ方がいいのでしょうが少しずつになりそうです、この先近藤さんに教えて頂いていく過程でこれは読んだ方がいいと思われる本は教えてください。

  2. HP管理者 のコメント:

    chntooさん、コメント有難うございます。

    まだこのブログの管理機能が完全に把握できていないために、一旦書き込んだものを消してしまいました。しばらく試行錯誤になりそうです(笑)。

    最後まで残っていたホームページの改装作業、槌田さんの人為的CO2地球温暖化否定論に対する気象学会と東大による言論弾圧を告発する訴訟についての報告の部分を整理しなおしていました。
    気象学会論文掲載拒否事件
    東大IR3S『地球温暖化懐疑論批判』名誉毀損事件

    ホームページを整理しながら、資料を読み直したりしていて、だいぶ時間がかかってしまいました。槌田さんや、武田邦彦さんなど、日本の誠実な自然科学者はご高齢の方が多いのに対して、『地球温暖化懐疑論批判』に関わった、現実から逃避してコンピュータの仮想空間に遊ぶ若い研究者たちには自然科学者としての資質に欠ける研究者が多いことに暗澹たる気持ちになります。

    >読んだほうが良い本、ということですが、ホームページの記事、環境問題総論の各論考に目を通してくだされば、とりあえず問題はないと思います。思いついたものがあれば、適宜紹介します。

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