原子力発電は石油文明の出来の悪いサブシステム

前回までで、エネルギー技術を評価する上での基本的な視点や評価の基準がある程度ご理解いただけたと思います。今回からは具体的な事例について考えることにします。

1. 原子力文明は幻 ~原子力は基本エネルギーになり得ない

現在は工業文明、中でも石油文明の時代です。石油文明とは石油を基本エネルギーとして利用する文明です。石油は有限の資源なので、工業文明を維持するためには石油に変わる基本エネルギー資源ないしエネルギー供給技術を開発しなければならないという主張があります。この主張そのものにも大きな欠陥がありますが、とりあえずそれは棚上げしておくことにします。

石油代替エネルギーとして、原子力(発電)を挙げるグループがあります。その妥当性を検証することにします。まず、基本エネルギー供給システムの必要十分条件を再掲します。

  1. エネルギー産出比>1.0
  2. ある程度の広がりを持つ地域に対して、文明が成熟するのに十分な期間、継続して供給出来るほど十分な量がある。
  3. 扱いやすく、リスクが小さい。

原子力の本質は、核分裂性物質の核分裂反応を制御して熱エネルギーを利用する技術です。要するに熱源です。熱エネルギーという意味では石炭や石油と同じです。ところが、石炭や石油は極めて単純な器具を用いて燃やすことが出来ますが、原子力はそういうわけには行きません。

核分裂反応を制御して利用するためには大規模で複雑・繊細な制御システムが必要です。しかも、核分裂反応は生体にとって極めて危険な放射線を放出し、同時に放射能を持つ核分裂生成物を生成します。そのため、核分裂反応による放射線や、核分裂生成物を環境から遮蔽・隔離するために強靭なバリアー=圧力容器や格納容器などを作ることが必要になります。また核分裂反応の熱交換に用いる媒体や遮蔽構造物自体も放射化します。

従って、原子力を生活の身近な場所で直接熱源に用いたり、原子力エンジンで小型の運搬手段を動かすことは不可能です。動力として直接原子力を用いているのは、経済性・安全性よりも戦略的な意味を重視する潜水艦や航空母艦などの極一部の特殊な条件下で原子力外燃機関を利用しているだけです。かつて日本では原子力商船を開発しようとしていましたが、初めから成り立たないことは明らかでした。結局、原子力の商用あるいは民生用の利用とは原子力発電以外に存在しないのです。

軽水炉原子力発電については前回検討したように、熱効率は0.3程度に過ぎません。しかも、前述のとおり、原子力発電では核分裂反応という制御が難しいばかりでなく生体にとって危険な反応を熱源とするために、同じ熱出力の火力発電所に比較して、はるかに大規模な発電所設備が必要になります。おそらく軽水炉原子力発電はエネルギー産出比<0.1程度の極めて効率の低いエネルギー供給システムなのです。

原子力発電によるエネルギー供給システムが工業文明を支える基本エネルギー供給システムとなるための必要条件は、総合的なエネルギー産出比>1.0となることです。そのためには、原子力発電で得た電力1単位をウラン燃料の生産工程(ウラン鉱の採掘、精錬、濃縮、転換、燃料加工などの各工場の建設・運用)に投入することで、熱出力10単位分の軽水炉核燃料を生産することが出来るかどうかということになります。

ウラン燃料の製造では、天然ウラン含有率0.2%程度のウラン鉱石を採掘します。天然ウランの内、99.3%は非核分裂性の238Uであり、核分裂性の235Uはわずか0.72%しか含まれていません。軽水炉核燃料では核分裂性の235Uを4%程度にまで濃縮しなくてはなりません。単純計算ではウラン鉱石に含まれる235Uを2778倍程度に濃縮しなければならないのです。

原油から石油燃料を生産する過程のエネルギー産出比は10程度です。軽水炉核燃料の製造コストについては、核濃縮技術が軍事技術であることから、十分な情報が開示されていません。しかし常識的に考えれば、軽水炉核燃料の複雑で長大な製造過程のエネルギー産出比は、単純な分留操作によって製造できる石油燃料生産のエネルギー産出比よりも遥かに小さいと考えられます。つまり、ウラン鉱石採掘~原子力発電によるエネルギー供給システムの総合的なエネルギー産出比は1.0を超えることはなく、工業文明を支える基本エネルギー供給システムとしての必要条件を満足することは出来ないのです。原子力文明は幻なのです。

註)エネルギー産出比<1.0とは、言い換えれば自ら生み出すエネルギーだけを使って自らを単純再生産出来ないということです。石油文明下の原子力発電では石油の優れた能力によって原子力発電システムが運用されているために、この基本的な問題が見えにくくなっているのです。

2. 石油文明下の有効なサブシステムの必要条件

前回、石油文明下でなぜ石炭や炭化水素ガスを利用するのかを検討しました。ここではこれを一般化して、石油文明下で利用するエネルギー供給サブシステム導入の合理性の判断基準をまとめておきます。

  1. 石油にはない資源特有の優れた能力がある。
  2. 石油をそのまま使用する場合と、石油を使ってサブシステムを運用した場合を比較した時、総合的な効果(供給エネルギー量や経済コスト)として後者のほうが優れている(=石油を節約できる)。

3. 原子力発電のサブシステムとしての導入に合理性はない

既に検討した通り、軽水炉原子力発電には工業文明を支える基本エネルギー供給システムを担う能力がないことは明らかです。それでも、石油文明下の電力供給サブシステムとして利用することには意味があるかもしれません。

軽水炉原子力発電を電力供給サブシステムとして導入することに合理性があるのは、同量の石油を、石油火力発電システムと軽水炉原子力発電システムに投入した場合、軽水炉原子力発電システムの方がより多くの電力を供給する能力がある場合です。ここでは、投入エネルギーの経済コストを比較することによって推定することにします。

一般に、工業製品の原価には、その生産過程に投入されたエネルギーの費用が含まれています。工業製品原価に含まれる投入エネルギーの費用の割合を20%と仮定しておきます。

石油火力発電の場合、電力の発電原価は10円/kWh程度です。その内、燃料石油費用は電力原価の60%、6円/kWh程度です。残りの4円/kWhは製造設備(=火力発電所)の建設・運用・補修費用と考えることが出来ます。製造設備も工業製品ですから、4円/kWhの20%は投入エネルギー費用だと考えられます。結局、6円/kWh+4円/kWh×20%=6.8円/kWhが発電過程で投入された総エネルギーに対する費用だと考えられます。

これに対して、福島第一原発事故以前の軽水炉原子力発電の発電原価は、東京電力の申請値で20円/kWh程度でした。しかし、日本の原子力発電システムに対しては電力会社の発電原価に含まれていない莫大な国費が投入されています。また軽水炉原子力発電のバックエンドの費用も含まれていません。これらを算入した本当の意味での発電原価ははるかに高額になります。ここでは控え目に見て、40円/kWhだとします。原子力発電では、軽水炉核燃料も工業製品ですから、40円/kWh全てが工業製品価格と見なすことが出来ます。軽水炉原子力発電システムの発電過程で投入された総エネルギーに対する費用は40円/kWh×20%=8円/kWhになります。

以上から、石油火力発電電力は電力量1kWh当たり6.8円分のエネルギー(≒石油燃料)が投入されているのに対して、軽水炉原子力発電電力では電力量1kWh当たり8円分のエネルギー(≒石油燃料)が投入されているのです。つまり、同量の石油燃料があった場合、石油火力発電の方が軽水炉原子力発電よりも多くの電力を供給できるのです。軽水炉原子力発電システムに石油を投入することは石油の浪費であり、軽水炉原子力発電は石油文明のサブシステムとしても導入することに科学的な合理性は存在しないのです。

4. なぜ原子力発電が存在するのか?

これまでは、純粋にエネルギー供給システムとしての原子力について考えてきました。しかしその範囲では軽水炉原子力発電の合理的な存在理由はありませんでした。

原子力の初めの実用的な利用は、第二次世界大戦末期のマンハッタン計画によって実現した原子爆弾です。中でも安上がりなプルトニウム爆弾を製造するためには原子炉を運転することが必要です。平時に原子炉技術=プルトニウム爆弾製造能力を安上がりに維持するために、原子炉の廃熱を使った蒸気タービンによる発電が考えられたのです。歴史的に見て、プルトニウム爆弾製造が主要な目的であり、廃熱利用による発電はそれに付随した技術なのです。

日本でもそれは同じです。日本において原子力発電の導入に先鞭をつけたのは核武装論者の保守党議員でした。戦後保守政権は一貫して核武装を目指してきました。保守系の国会議員の多くが核武装容認しているのはご存知の通りです。極右安倍政権の再登場によって、日本の脱原発の可能性は遠のいたと考えています。日本の原子力発電の存在意義は核兵器製造技術を獲得すること以外に合理的な理由はないのです。

註)東電福島第一原発事故後に於いて、原子力の監視体制の見直しの一環という名目で『原子力規制員会設置法』が制定されましたが、その第一条(目的)において「我が国の安全保障に資することを目的とする」という文章が書き込まれました。要するに原子力の安全保障=核兵器への利用を公認したのです。その後も自民党の石破は安全保障のために核燃料サイクルは維持する意向を明言しました。

 

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